表面処理のご相談

生物の構造から学ぶ ~バイオミメティクスから生まれた表面微細加工~

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世の中には、自然の生物が持っている構造や機能をまねて技術的に活用し、暮らしを便利にしたり先進的なイノベーションにつなげたりする例があふれています。それらはバイオミメティクス(生物模倣技術)と呼ばれています。

バイオミメティクスでは、「ナノメーター(nm、1nm=0.000001mm)」というたいへん微細な世界で起きている事象をヒントにすることも少なくありません。とくに生物の表面構造をミクロの単位で見ると、さまざまなしくみが隠れており、それがもたらす機能を知るとなるほどと驚かされます。

この記事では、生物の持つ驚きの特性を再現する微細な表面加工技術によって、私たちの身の回りの課題を解決する5つの例をご紹介します。

生物の表面構造に隠れたすごい特性5選

カタツムリの殻

カタツムリ

【特性】
カタツムリの殻は、汚れが付いても雨で濡れると簡単に流れ落ちることが知られています。

【形状】
殻の表面には、数十ナノメーターの溝が縦横無尽に走っています。

【模倣技術】
親水性のある材料を用いて、これに似た形状の表面をつくることで、付着した汚れなどを水で比較的楽に洗い落とせます。
具体的には、建築物の外壁材や水回り設備の防汚性を高めるために使われています。

オナモミの種

オナモミの種

【特性】
オナモミの種は、より広く子孫を残すため動物の毛や人の衣服にくっつき、遠くへ運ばれます。

【形状】
種には多数の棘があり、その先端はかぎ状のため、細いものに引っかかります。落ちても何度も引っかかることができます。

【模倣技術】
先端がかぎ状になった多数の突起を持ったものと、引っかかる構造を持ったものを人工的に作ると、それをくっつけたり離したりできます。しかも接着剤や糊と違い、その着脱を何度も繰り返すことができます。この構造は、よくご存じのマジックテープや面ファスナーとして商品化されています。

サメの肌

サメの肌

【特性】
サメの皮膚は、水の抵抗を減らし、小さな力で速く泳ぐことに適しています。

【形状】
サメの皮膚には小さな突起がうろこ状にあります。その突起には、溝が数十ミクロン間隔で一定方向に並んでいます。この突起と溝があることにより水の抵抗摩擦を低減しています。

【模倣技術】
同じような突起と溝を持った面を作ることで、水や空気の抵抗を抑えられます。例えば競泳用の水着や、航空機の機体、船舶の船底にも導入され、燃費向上や速度向上が実現できると期待されています。

蛾の眼

蛾の眼

【特性】
蛾の眼は光をほとんど反射しないため、夜間のわずかな光も無駄なく取り入れることで飛び回れます。また鳥などの外敵に見つかりにくいというメリットもあります。

【形状】
数百ナノメータという大きさの突起が眼の表面すべてにあり、眼の中で光の屈折率を変えることで、無反射性を実現しています。

【模倣技術】
蛾の眼と同じような構造を再現することで光の反射を防ぎ、効率よく光を使えます。例えば近年は太陽電池の発電効率アップに生かす研究が進んでいます。また反射防止フィルムへの活用例も見られます。

ウツボカズラの内壁

ウツボカズラ

【特性】
ウツボカズラは袋状の葉を持った食虫植物で、袋の中に落ちた虫を内壁で滑り落とします。

【形状】
ウツボカズラの内壁面にはナノレベルの凸凹があり、その凹面には潤滑剤が保持され、「滑りやすい」表面を実現しています。

【模倣技術】
ナノレベルの凸凹に潤滑材を保持させた面を形成すると撥油性が増します。それをコーティングなどで実現することで、オイルの這い上がりや、油性材料の容器の残留防止に効果が期待されます。

まとめ

このように、生物の微細な表面構造にヒントをもらった研究が、さまざまな分野で進んでいます。吉田SKTが日々開発する表面処理も、大いにその恩恵にあずかっています。バイオミメティクスの視点での技術開発は、私たちの命題でもあります。

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