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フッ素樹脂の成形方法 ~PTFEとPFAの違いを解説~

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樹脂の成形方法には、さまざまな手法があります。しかし、フッ素樹脂がどのように成形されているか、皆さまはご存じでしょうか。
フッ素樹脂は、一般的には熱を加えるとやわらかくなる熱可塑性樹脂に分類されますが、実はすべてのフッ素樹脂が同じ性質を持つわけではありません。そのため、同じフッ素樹脂でも、PTFEとPFAでは成形方法がまったく異なります。
今回は、フッ素樹脂の代表格であるPTFEの成形方法について、PFAとの違いも交えながら、できる限り分かりやすくご紹介していきたいと思います。

成形方法が異なるPTFEとPFA

PTFEとPFAは、ともに熱可塑性樹脂でありながら、なぜ成形方法が違うのでしょうか。その理由は「溶融粘度」の違いにあります。
PTFEは溶融粘度がきわめて高く、融点以上に加熱しても流動性がほとんどありません。そのため、一般的な溶融成形方法である射出成形やブロー成形では製品を作ることができないのです。
一方、PFAはPTFEよりも溶融粘度が低く、十分な流動性を持っています。これにより、一般の熱可塑性樹脂と同じ成形方法で加工することが可能になっています。

  PFA PTFE
融点 約290~310℃ 327℃
粘度 103~105Pa・s(380℃)
(104~106ポイズ(380℃))
109~1010Pa・s(380℃)
(1010~1011ポイズ(380℃))
連続使用温度 260℃ 260℃

成形におけるPTFEの種類

成形に使用するPTFEは、大きく3つの種類に分けることができます。それぞれが成形方法に応じて使い分けられています。

モールディングパウダー

懸濁重合と呼ばれる方法で製造されたPTFEの粉末を、さらに解砕したり、造粒したものです。粗さにはさまざまな種類があり、製品形状に応じて使い分けられています。主に圧縮成形で用いられるパウダーです。

PTFEディスパージョン

乳化重合と呼ばれる方法で製造された液状のもので、液体中にPTFEの微粒子が分散した状態のことを指します。主に含侵コーティング法で使用されます。このディスパージョン液をクロスなどに含侵させ、乾燥・焼成することで、フッ素樹脂(PTFE)の機能を持つファブリック製品が作られます。

ファインパウダー

乳化重合で生成されたPTFEディスパージョンを凝集・乾燥させて得られる微細なPTFE粒子です。ファインパウダーの粒子はスポンジのような多孔質構造になっており、せん断力を加えることで簡単に繊維化し、変形しやすいという特性があります。この性質を活かして、主にチューブやテープなどの成形に用いられています。

PTFEの成形方法

溶融成形が困難なPTFEの成形には、粉末冶金やセラミックスの成形に似た方法が用いられています。主な方法として以下が挙げられます。

圧縮成形

PTFEモールディングパウダーを金型に充填し、プレスで押し固めて予備成形します。予備成形後の製品は一見すると固まって見えますが、少し力をかけるとすぐに壊れてしまう状態です。そこで炉に入れて焼成・冷却することで、PTFEのパウダー同士が一体化し、緻密なブロックになります。このブロックを「ビレット」といいます。

圧縮成形
圧縮成形

アイソスタティック成形

複雑な形状や薄肉製品の成形に用いられる方法です。金型の一部をゴムなどのフレキシブルな素材とした型にPTFEモールディングパウダーを充填し、それを水で加圧したり、ゴムの圧縮変形を利用することで予備成形を行います。圧縮成形の場合と同様に、これを焼成することでブロックが得られます。均一な密度の成形品が製造可能です。

ラム押出成形

PTFEのモールディングパウダーで唯一、焼成された状態で長尺ロッドやパイプとして成形できる成形法です。金型の一端から定量のパウダーを入れ、これを油圧シリンダのラム(押込棒)で定位置まで押し込みます。これを一定間隔で繰り返すことで予備成形され、さらに先の加熱領域まで押し込まれます。その後冷却されて押し出されて完成です。連続的に成形・焼成を行うため、長尺のロッドやパイプの成形が可能です。

ペースト押出成形

PTFEファインパウダーに押出助剤を加えて円柱状に予備成形した製品を、高圧でチューブ形状に押し出して乾燥と焼成を行い、連続成形する方法です。これはファインパウダーがせん断力を受けると線維化する性質を利用したもので、押出助剤を加えてペースト状になったものを成形するため、ペースト押出成形と呼ばれています。

PTFE製品ごとの成形方法

シート製品

PTFEシートの製造では、まず上記の「圧縮成形法」で円柱状「ビレット」を作ります。
完成したビレットを回転させながら刃物をあて、シートを連続的に削り出して巻き取ります。この方法は「スカイブ」と呼ばれ、料理でいう「かつら剥き」のようなイメージといえるでしょう。
ちなみにPFAシートの場合は、溶融押出成形で製造されます。加熱してやわらかくしたPFAを、ダイという金型に加圧して通すことで成形し、冷却してから切断する方法です。

スカイブ

チューブ製品

PTFEチューブの代表的な成形方法は「ペースト押出成形法」です。PFAチューブの場合は、シートと同様に溶融押出成形法で製造されます。

ペースト押出成形
ペースト押出成形法

各種部品

圧縮成形法では複雑な形状の成形が困難ですが、成形されたPTFEビレットは通常の工作機械で切削加工(2次加工)することができます。ただし、熱膨張や弾性のため、金属のように高い寸法精度で加工することはできません。
ビレットの状態から切削加工されたPTFE製品は、半導体分野や化学工業分野など、純粋性や耐熱性、耐薬品性を必要とする分野で多く使用されています。
ちなみにPFAの場合は流動性に優れるため、一般的な射出成形が可能です。金型に加熱したPFAを充填し、圧力をかけて成形、金型を冷却した後で成形品を取り出します。

フッ素樹脂の成形方法まとめ

フッ素樹脂の成形方法について、PTFEとPFAの違いに基づいてご説明しました。PTFEは高い溶融粘度のため特殊な成形法が必要ですが、PFAは一般的な熱可塑性樹脂と同様の成形が可能です。用途に応じて適切な材料と成形方法を選択することが重要です。

吉田SKTでは、これからもフッ素樹脂に関する技術情報を、できる限り分かりやすくお伝えしていきたいと思います。フッ素樹脂製品やコーティング関するご質問やご相談がございましたら、お気軽にお声がけください。