PPS樹脂の用途とは?特徴やメリット・デメリット、成形方法も解説
金属部品の代替として、PPS樹脂が注目を浴びています。電気自動車や電子部品での利用、航空業界での需要が増加しており、PPS樹脂市場は今後も拡大が予測されます。
この記事では、PPS樹脂の用途や特徴、成形方法、メリットやデメリットについて解説します。ぜひ参考にしてください。
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PPS樹脂とは
PPS樹脂は、熱可塑性樹脂のうち、スーパーエンプラと呼ばれる高性能エンジニアリングプラスチックの1つです。ベンゼンと硫黄の化学構造で構成されています。PPSは「ポリフェニレンサルファイド」を省略したものです。
結晶性があり、耐熱性、耐寒性、耐薬品性などに優れていることから、さまざまな分野で利用が広がっています。
PPS樹脂の製造方法
PPS樹脂は、主原料であるパラジクロルベンゼンと硫化ソーダを化学的に結合させることで製造されます。硫化ソーダの代替品として、水硫化ソーダを使用する場合もあります。いずれも、有機性の極性溶媒中で合成を行います。
PPS樹脂の種類
PPS樹脂は、架橋型、直鎖型の2つに分類されます。それぞれのメリットについて解説します。
架橋型(分岐型)
架橋型(分岐型)は、酸素が含まれるなかで熱処理を行うことで、ポリマーの分子量を高められるメリットがあります。高温度の環境での剛性が強く、クリープ変形に適しています。
直鎖型(リニア型)
直鎖型(リニア型)は、製造途中で熱処理を行ないません。架橋構造が含まれず、分子は直鎖状です。架橋型に比べると、伸縮性と抵抗力に優れています。ポリマーの純度が高く、湿気を吸収しないため、高温多湿の環境でも長さや幅が変わりません。電気絶縁性が高いというメリットもあります。
PPS樹脂の性質
PPS樹脂の機械的性質、物理的性質を解説します。
機械的性質
PPS樹脂は、温度変化がある環境でも引張強度が変わらないため、歪みが起きず剛性を維持できる特徴があります。多くのプラスチックの強度が10kgf/㎟のところ、PPS樹脂は無充填時で7.0kgf/㎟、グラスファイバーを40%充填すると16.4kgf/㎟と高い強度が特徴です。
物理的性質
結晶性があり、220℃まで耐熱性があります。無充填時の密度は1.34g/㎤、グラスファイバー40%充填時では、1.64g/㎤です。
PPS樹脂のメリット
需要が高まっているPPS樹脂には、さまざまな環境下において多くのメリットがあります。それぞれ解説します。
耐熱性が高い
PPS樹脂には、高い耐熱性を持つ特徴があります。耐熱温度が220℃と、高温にも耐えられるため、熱を帯びやすく高温になりやすい部品にも使用可能です。融点が280℃で自己消火性が高く、火災のリスクを抑えられます。耐寒温度もマイナス20℃まであり、低温の環境下でも部品に影響を与えません。
耐薬品性が高い
PPS樹脂は、アルカリ性や弱酸性の薬品に耐性があることもメリットの1つです。200℃以下の環境下においては、アセトンなどの有機溶剤と接触しても溶けません。また、油にも強いという特徴があります。PPS樹脂は、一部の酸には溶けるものの、さまざまな溶剤や化学品、酸やアルカリの薬品に触れても変化しない特徴があります。
寸法安定性が高い
結晶性で収縮率が少ないPPS樹脂は、変形しにくく、寸法安定性が高い特徴があります。吸水性もきわめて低く23℃、浸漬24時間での吸水率は0.02%です。PPS樹脂は荷重をかけられてもクリープ現象が起こりにくく、加圧や加水分解で変形する懸念を減らせます。
絶縁性に優れている
PPS樹脂は、電気を通しにくく絶縁性に優れています。温度100℃、湿度80%の環境下においても絶縁性が変わりません。誘電率、誘電正接が低く、周波数の変化に影響を受けません。絶縁性があり、安全性にも優れています。
材料異方性が高い
PPS樹脂は、材料異方性が高いことも特徴の1つです。剛性の高い繊維を添加した場合、繊維の性質に影響されて強度や弾性率などの機械的性質、成形収縮率、線熱膨張率などが強化されます。結晶性であるPPS樹脂は、繊維状強化剤や無機質フィラーの充填により更に強度や性能が変化します。
難燃性に優れている
PPS樹脂は、難燃性に優れているため燃えにくく、発煙性も低いというメリットがあります。
材料の燃えやすさは酸素指数で表します。空気中の酸素濃度が約21%のため、21よりも酸素指数の数値が大きい材料は、空気中では燃焼が続けられないとみることができます。PPS樹脂は酸素指数34となっています。
またUL94という規格では、難燃剤が含まれない状況でも、燃焼性を示す「V-0」を満たしています。
PPS樹脂のデメリット
さまざまな環境下でも影響を受けにくいPPS樹脂ですが、衝撃や摩擦には弱いという特徴もあります。それぞれ詳しく解説します。
衝撃への耐性が低い
PPS樹脂は、瞬間的にかかる強い力には、耐性が低いというデメリットがあります。熱や一定の荷重には耐性があるものの、衝撃への耐性には優れていません。そのため、高所から落下する可能性が高い機器の使用には不向きです。衝撃への耐性の低さは、PPS樹脂にガラス繊維を混ぜることで補強が可能です。
摩耗に弱い
摩耗への耐性が低いことも、PPS樹脂のデメリットです。機械の作用による摩擦や研磨により表面が減少する摩耗は、製品の寿命にも影響を及ぼします。材料が摩耗すると、歯車やベアリングの噛み合わせが悪くなったり、部品が破損したりします。駆動部品やベアリングは取り扱いに注意が必要です。
PPS樹脂の用途
PPS樹脂は、身近な環境で使われています。PPS樹脂の使用用途を3つに分類して解説します。
自動車部品
熱に強く、金属よりも軽いPPS樹脂は、軽量化が進む自動車分野で広く普及が進んでいます。耐熱性に優れているPPS樹脂は、エンジンルーム内の自動車部品にも使用されています。PPS樹脂が使われている自動車部品の一例は、以下のものです。
- 排ガス処理バルブ
- キャブレータ
- マニホールド
- ECUケーブル
- ランプソケット
電気・電子部品
耐熱性が高く、寸法安定性、難燃性に優れた特徴をもつPPS樹脂は、電気・電子部品にも適しています。PPS樹脂が使用されている主な基幹電子部品は以下です。
- マイクロスイッチ
- コンデンサー
- フォトインターラプター
- SMT対応コネクター
- コイルボビン
PPS樹脂が使用されている主な一般電気・電子部品は以下です。
- CDドライブ光ピックアップベース
- DVDドライブ光ピックアップベース
- プリント基板
- IC部品
家電部品
PPS樹脂は、耐熱性の高さや熱伝導率の低さからさまざまな家電部品に使用されています。以下の家電部品にもPPS樹脂が使用されています。
- 電子レンジの部品
- 電磁調理器のコイルベース
- ヘアドライヤーのノズル
PPS樹脂の将来性
PPS樹脂は、電気自動車の生産増加により需要が拡大傾向です。国内では、1980年代からPPS樹脂がさまざまな分野で使われるようになりました。
ハイブリッドカーや燃料電池車の車体重量の軽量化の流れから、自動車部品のPPS樹脂採用割合が増えると予測されています。電子産業や航空宇宙産業からの需要拡大も、PPS樹脂の市場拡大の一端を担っています。
参考記事:電気自動車の導入が進む背景とは?メリット・デメリットについても解説
参考記事:EV(電気自動車)とは?HVとの違いやメリット・デメリット、選び方なども解説
まとめ
PPS樹脂は、可塑性樹脂のうちスーパーエンプラと呼ばれるプラスチックの1つです。金属よりも軽く、多くのメリットがあるため、自動車部品や電子・電気部品、家電製品など広い用途で使用されています。今後より需要の拡大も見込まれています。
吉田SKTは表面処理、テフロン™フッ素樹脂コーティングの専門メーカーです。テフロン™コーティングのライセンス工場で、独自技術による表面処理を提供しています。PPS樹脂をはじめスーパーエンプラやエンプラの成形でお困りの際はお気軽にお問い合わせください。成形設備の改善方法をご提案させていただきます。
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