超硬合金とは?成分別の種類一覧から製造プロセスまでまとめ

超硬合金とは、ひとことで言うと硬度特性の高い合金素材のことです。
硬さを必要とする材料や工具をはじめ、さまざまな産業に使用されます。超硬合金は成分の配合しだいで特性が変わるため、用途に応じた調整を行います。
この記事では、超硬合金の特徴やメリットデメリット、成分組成による種類分けとそれぞれの特徴から用途、製造方法までまとめています。
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超硬合金の特徴
超硬合金は、非常に硬い金属の炭化物(主に炭化タングステン、炭化チタン、炭化タンタルなど)と、それらを結びつける役割を持つ金属(主にコバルト、ニッケルなど)を混ぜ合わせて高温で焼き固めた合金です。これらの炭化物は、周期表の特定の位置(第4族、第5族、第6族)に属する金属から作られています。
超硬合金は、非常に優れた硬度と強度を持つ材料であり、硬さの指標であるHRA(ロックウェル硬さAスケール)は80~94の範囲に達します。この硬度は、ダイヤモンドに次ぐ高い値とされ、工業用途で特に重宝されています。また、超硬合金の抗折力(曲げ強さ)は約2GPa(200kg/mm²)以上であり、高い耐久性を示します。さらにヤング率が鉄の約2.5倍、比重は鉄の約2倍などの特徴があります。
これらの特徴をいかして、耐摩耗性や耐衝撃性を要する加工工具やプレス金型などに利用されています。
超硬合金のメリット|硬さだけではない
超硬合金のメリットのひとつは、熱膨張係数が低く耐熱性に優れている点です。高温下でもサイズが変化しにくく、寸法精度の高い加工が可能です。
高い熱伝導率も持ち合わせ、他の金属との焼き付きによる寿命低下が起こりにくいといわれます。
耐摩耗性や圧縮強度、切削性能に優れ、工具の長寿命が期待できます。さらに耐腐食性や耐溶着性があり、超硬合金を使用した工具類や加工物は精度面の信頼性や耐久性もアップします。
超硬合金のデメリット|コストや弱点も
超硬合金は、製造時の成分割合によって靭性や耐衝撃性が低い場合があります。一般的な鉄合金と比べてそもそも靭性が低いため、刃先のかけや破損の発生が懸念されます。
その他にも、加熱と急冷の繰り返しでダメージを負いやすく、加熱膨張やロウ付けの接合時には細かな作業が求められるでしょう。
使用する鉄系金属の価格が近年高騰していることや、硬い合金であるため加工にはダイヤモンド砥石や放電加工など特別な設備や機械の設置が求められることから、素材費用や設備費用がかさみがちです。
超硬合金における成分組成別の種類一覧
超硬合金は、配合される金属成分の組成で種類分けされます。ここでは、金属炭化物と、結合相(バインダー)となる鉄系金属の成分組成別の種類とそれぞれの特徴を紹介します。
種類 | 成分 | 特徴 |
---|---|---|
WC-Co系 | 炭化タングステン コバルト |
熱膨張率が低い 機械特性に優れる 代表的な超硬合金 |
WC-TiC(TaC)-Co系 | 炭化タングステン コバルト 炭化チタン(炭化タンタル) |
炭化チタン(TiC)や炭化タンタル(TaC)は、鉄と反応しにくい耐酸化性を付与する |
WC-Ni(Cr)系 | 炭化タングステン ニッケル クロム |
非強磁性・耐食性 |
炭化タングステン(WC)は、タングステンカーバイドとも呼ばれ、高温下で炭素とタングステンを反応させて得られます。六方晶の緻密な結晶構造を有し、剛性が非常に強い無機化合物です。
WC-Co系
WC-Co系は、炭化タングステン(WC)とバインダーにコバルト(Co)を使用した超硬合金です。
他と比べて最も機械特性に優れるため、超硬合金の代表的な種類であるといえるでしょう。
Coの配合量は3~30%で、WC粒子同士の隙間を埋める接着剤の役割を果たし、Co量が増えると硬度が下がります。
一般的な超硬合金はWCの粒子サイズが、1.5〜2.5μm程度です。
超微粒子サイズでは、0.5〜0.7μmと細かく、超硬合金の硬さや耐摩耗性などの特性を高めるために使用されます。
WC-TiC(TaC)-Co系
WC-TiC(TaC)-Co系は、炭化タングステン(WC)に加え炭化チタン(TiC)と炭化タンタル(TaC)と、バインダーにコバルト(Co)を使用した超硬合金です。
鉄と反応しにくいTiCやTaCを加えることで、WCの耐摩耗性や耐酸性の特性を追加し使用寿命の延長に寄与します。
WC-TiC(TaC)-Co系は、高速加工や鋼の切削工具に向いた超硬合金であり、高温環境下での耐摩耗性を必要とする場面でも活用されています
TiCとTaCの構成割合の違いでも、特性が変化する特徴を持ちます。
WC-Ni(Cr)系
WC-Ni(Cr)系は、炭化タングステン(WC)の結合相(バインダー)にニッケル(Ni)やクロム(Cr)を使用した超硬合金です。
この材料は非強磁性を示し、通常の超硬合金と比較して優れた耐食性を持つことが特徴です。
さらに、結合相にCrを添加したWC-Ni-Cr系では、耐食性が一層向上します。
これらの特性を活かし、耐食性が要求される製造現場の工具や部品などに使用されています。
超硬合金の用途一例|掘削・切削工具や耐摩耗パーツ
超硬合金は、成分の構成元素や配合比率によって特性が変化します。特性を利用して、さまざまな産業で使用され、活用されているでしょう。
ここでは、使用される産業と用途の一例を紹介します。
工業
超硬合金は工業用途において、ドリルやフライス加工といった切削工具や、耐摩耗性および耐衝撃性が求められる鉱山用工具などに広く使用されています。また、耐熱性に優れているため、アルミ缶の製造に用いる金型や、自動車のエンジン部品用の粉末成形金型など、多様な分野で活用されています。ただし、超硬合金は高価な素材であるため、基材にコーティング(溶射)を施し、特性を付与しながらコストを抑える手法も採用されています。
航空宇宙産業
航空宇宙産業では、高融点で優れた耐食性を持つモリブデン合金の加工に、超硬合金製の切削工具が使用されます。超硬合金は、耐摩耗性と加工精度の高さから、モリブデン合金を含む難削材の加工に適しています。モリブデン合金は、高温・高圧下で耐久性が必要なロケットエンジンや翼部分の熱保護などに使用される素材です。
医療機器・精密機器
医療機器や精密機器の分野では、極めて高い加工精度が必要なため、加工技術に硬度と耐摩耗性を持ち合わせた超硬合金が利用されています。小径ガンドリルに使用される超硬合金は、穴あけ技術の進化と作業効率、そして製品の信頼性を高めるための素材として期待できるでしょう。穴あけだけでなく、溝や小さな凹凸を精密に作る加工技術でも超硬合金の優れた特性が活かされています。
超硬合金の製造プロセス
超硬合金の製造は、以下の製造プロセスで作られます。
- 1.材料選択・配合
主成分のWCやその他の金属炭化物、バインダーの鉄系金属、その他の添加物を選択し、所定の割合を計量後、配合します。 - 2.混合・粉砕
粉砕機のボールミルやアトライタなどの混合機で原料粉末を混合、粉砕します。 - 3.乾燥・造粒
真空撹拌機で原料粉末を乾燥させて、ある程度のサイズに造粒し流動性を高めます。 - 4.プレス成形
造粒した粉末をブロック状や円筒状にプレス成形し、圧粉成形する。圧粉成形には、金型を使ったプレスもしくはダイスによる押出の方法が用いられます。 - 5.加工・処理(予備焼結)
圧粉成型品の形状安定性を高めるために低温で予備焼結し、切削加工で成形します。 - 6.加工・処理(焼結)
予備焼結よりは高く、結合相(バインダー)である鉄系金属の融点よりは低い温度で行います。
なお焼結には、真空や不活性ガス下で焼結を行う常圧焼結と、加圧しながら焼結を行う加圧焼結の方法があります。
超硬合金の加工方法
超硬合金は硬質で耐摩耗性を持つ材料のため、用途に合う最適な加工工具や加工方法の選択が大切です。ここでは、いくつかの加工方法を紹介します。
- ダイヤモンド加工
ダイヤモンド砥石や焼結ダイヤモンド(PCD)を使用した加工。 - 放電加工
金属間で発生する火花の熱を利用して金属を溶かし加工する方法。超硬合金の硬さに関わらず使用可能で、熱や圧力は最小限で、非接触の加工が可能。 - レーザー加工
超硬合金の切断や形彫に使用される方法。放電加工より電気代の削減ができ、放電加工と同様に非接触の加工が可能。 - ラップ加工
微細な目の研磨剤を用いて、加工物の表面に均一な圧力をかけて磨く方法。 - 旋盤加工
材料を回転させて固定した工具に当て、削りや穴あけ、切断を行う方法。
まとめ
超硬合金は、金属炭化物と鉄系金属を混合焼結して作られる、硬さを特徴とする合金材料です。その硬さに加え、優れた耐摩耗性、耐熱性、高い寸法精度など、多くの優れた特性を備えています。
これらの特性は、製造時の配合成分の割合や鉄系金属の種類によって調整されます。その結果、超硬合金は硬度が求められる切削工具や金型をはじめ、軽負荷の材料加工など、さまざまな産業分野で活用されています。これからも、その特性を活かした応用がさらに広がることが期待されます。