半導体製造に必須のクリーンルーム設計とは?清浄度や構成要素、運用ルールまで解説

半導体の微細化が進むほど、その製造工程では空気中の微粒子や汚染物質が不良の原因になります。微粒子が回路に付着するとショートや断線を引き起こし、製品の歩留まり(良品率)は大きく低下します。これを防ぐため、半導体の製造現場では極めて清浄な環境を保つ「クリーンルーム」が不可欠です。
この記事では、クリーンルームの定義や基本構造から、半導体製造現場で求められる清浄度レベル、運用管理のポイント、そして最新の技術動向まで解説します。
目次 [閉じる]
- 1 クリーンルームとは
- 1.1 クリーンルームの定義
- 1.2 クリーンルームの目的
- 1.3 クリーンルームの歴史と発展
- 1.4 半導体製造におけるクリーンルームの役割
- 2 クリーンルームの構造と仕組み
- 3 半導体産業におけるクリーンルームの運用
- 4 まとめ
クリーンルームとは
クリーンルームの定義
クリーンルームは、空気中に浮遊する微粒子や汚染物質を厳密に制御し、極めて高い清浄度を保つために設計された施設のことです。外部からの異物を極限まで排除することで、高精度な製造プロセスを支えています。特に半導体分野では、ナノメートル単位の微粒子が大きな不良原因になりかねないため、他の業界と比べても特に高い清浄度が求められます。一般的な工場では1時間に数十回程度の換気が行われるのに対し、半導体クリーンルームでは1時間に数百回もの空気交換が推奨されます。またHEPA(高性能空気フィルター)やULPA(超高性能空気フィルター)が使用され、0.3μm以下の微粒子も除去します。
クリーンルームを利用する分野には、半導体製造のほか、医薬品やバイオテクノロジーなどがあります。
クリーンルームの目的
クリーンルームの目的は、清浄度を管理し、製品の品質と信頼性を確保することです。例えば半導体を含む電子デバイスの製造現場や研究施設では、0.3μm以下の微粒子も製品に悪影響を及ぼしかねないため、極めて高い清浄度が求められます。対象とする製品や研究分野によって必要な清浄度は異なります。さらに、建物の構造や空調設備の仕様など、さまざまな要素を総合的に管理する必要があります。
また、クリーンルームを必要とする業種は、もともとの製造コストが高額であることがほとんどです。そのため、汚染のリスクを最小限に抑え、常に安定した生産環境を確保することは、経営戦略上も欠かせない要素となっています。
クリーンルームの歴史と発展
クリーンルーム技術の起源は、医療や製薬分野での無菌・衛生管理にあります。手術室や微生物研究などの現場で、高水準の清浄度を保つ必要があったことが背景です。
1960年代にアメリカのサンディア国立研究所でウィリス・ホイットフィールド氏が「単方向流(層流)」を用いた設計を発案したことが、現在のクリーンルーム技術発展の大きな契機でした。これにより、航空宇宙や半導体など微小な汚染が許されない分野での利用が一気に加速しました。
半導体製造の微細化が進むにつれて、クリーンルームでは高性能フィルターや気流制御、恒温恒湿管理などがさらに強化され、現在ではISO 14644などの国際規格による品質基準が確立されています。近年は半導体分野で発展したクリーンルーム技術が医療・バイオ分野にも生かされるなど、分野間の応用による技術革新が続いています。
半導体製造におけるクリーンルームの役割
半導体製造では、ウェハ上に極小サイズの回路を形成していくプロセスが繰り返されます。その過程で微粒子が付着すると、回路がショートを起こしたり、層間が断線したりするなど、深刻な不良につながる恐れがあります。したがって、微粒子を徹底的に排除するクリーンルームの存在が製品品質に直結するのです。
半導体クリーンルームでは、クラス1からクラス100という極めて高い洗浄度レベルで運用することも一般的です。これは微小なコンタミネーションさえ許容されない工程が存在するからであり、清浄度を守り抜くために実に多くのシステムが導入されます。
また、半導体製造の歩留まりを向上させ、コストを削減するためには、クリーンルームの適切な運用が不可欠です。どれほど優れた製造装置を導入しても、クリーンルームの環境が不十分であれば、不良率は高止まりし、収益性にダメージを与えかねません。
クリーンルームの構造と仕組み
クリーンルームは、高性能なフィルターや気流の制御、温湿度管理など複数の要素を組み合わせることで、極めて清浄な環境を維持しています。
特にフィルターシステムでは、従来から使われるHEPAフィルターやさらに高性能なULPAフィルターを組み合わせるケースが増え、0.3μmクラスの微粒子をほぼ完全に除去できるように設計されています。これにより、クリーンルーム内部の空気は常に循環・浄化され、半導体製造などで要求される厳しい基準をクリアします。
構造面でも、気流が汚染源を巻き込まないように設計することが重要です。ウェハなど精密な製造対象へ微粒子が降りかからないよう、作業者の動線や装置の配置なども綿密に検討されます。また温湿度を一定に保つ空調システムによって、工程に影響する結露や静電気現象が起こりにくい環境を作り上げています。
さらに、クリーンルーム内を外部より高い圧力に維持し、いわゆる陽圧化を図ることで、外部からの微粒子侵入を防ぎます。
このように多層的な仕組みを組み合わせることで、微粒子や汚染物質が混入しにくい、高度に安定した環境をつくることが可能になります。
清浄度クラスと国際規格
クリーンルームの清浄度は、以前は米国連邦規格(Fed. Std. 209E)で定義されており、「Class 1」「Class 10」「Class 100」のように空気1立方フィート中の0.5µm以上の粒子数で区分されていました。しかし、この規格は2001年に廃止され、現在ではISO 14644が世界的に広く採用されています。
ISO 14644では、「ISO Class 1」から「ISO Class 9」までのクラス分けがあり、測定対象の粒子径を柔軟に設定できる仕組みが特徴です。粒径ごとの許容粒子数が明確に規定されているため、世界中で同じ基準を用いた品質管理を行いやすくなっています。日本国内ではJIS規格も用いられますが、多くの場合はISO規格との整合性が取られており、国際競争力を保つためにもISO規格を主軸に運用する企業が増えています。
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清浄度を表す「クラス」の概要
クリーンルームの清浄度を表す「クラス」は、特定粒径以上の粒子が空気中にどれだけ存在するかによって区分されます。
- Fed. Std. 209E(旧規格)
空気1立方フィート中の0.5μm以上の粒子数を基準に、「Class 1」「Class 10」「Class 100」などの表記が用いられていました。
例:Class 100は1立方フィートあたり0.5µm以上の粒子が100個以下 - ISO 14644(現行の国際規格)
「ISO Class 1~9」に分かれ、0.1µmや0.5µmなど複数の粒径に対して上限粒子数を定義しています。
例:ISO Class 5では、0.5µm以上の粒子が1立方メートルあたり3,520個以下 など
半導体製造では、より厳しいISO Class 3やClass 4相当を必要とする場合もありますが、実際には全工程を最も厳しいクラスにするのではなく、工程や装置の重要度に応じてクラスを使い分けることが一般的です。
国際規格と日本規格の違い
クリーンルームの規格としてはISO 14644が多用されますが、日本国内ではJIS規格での表記が使用される場合もあります。両者の数値基準には若干の差分があり、測定方法や粒子径の定義によって数値の捉え方が変わることがあります。
国際的な製造ラインを持つ企業では、ISO規格を基準として世界共通の品質管理を行うことが一般的です。一方で、日本の特定分野に合わせて微調整されたJIS規格を踏襲する現場も少なくありません。それぞれの規格を併用することで、より実情に合った管理が可能となります。
いずれにしても、重要なのは最終的に必要な清浄度を確実に達成し、継続的に維持する体制です。規格の比較や運用管理の標準化は、国際競争が激しい半導体業界において今後も大きな焦点となるでしょう。
空気清浄システム(HEPA/ULPAフィルター)の仕組み
HEPAフィルターは0.3μm以上の微粒子を99.97%以上除去できる性能を備えており、半導体クリーンルームの標準的な空気清浄装置として広く利用されています。より厳しい条件が求められる場合は、0.1μmレベルの粒子まで捕集可能なULPAフィルターが導入されることもあります。
フィルター自体の性能だけでなく、空気がどのように循環するかが、清浄度を維持するうえで大切なポイントです。設計段階で空気の流れを計算し、効率よく汚染物質を捕集できるようにダクトや送風装置を配置します。
さらに、フィルターシステムは定期的なメンテナンスや点検が極めて重要です。フィルターに目詰まりが生じると気流バランスが崩れ、クリーンルーム内の清浄度が一気に低下する恐れがあるため、管理プログラムを策定して交換や清掃の時期を厳守します。
気流方式の種類(垂直・水平・乱流)
クリーンルーム内の気流方式には、大きく垂直一方向流方式、水平一方向流方式、乱流方式の3種類があります。垂直や水平の一方向流方式では、フィルターから供給されるクリーンな空気が一方向に流れるため、微粒子の拡散を抑えやすいのが特長です。
一方向流方式は高い清浄度を保ちやすいものの、大規模な空間で採用すると設備費や運転コストがかなり高額になります。そのため、作業エリアや装置の重要度に合わせて、一方向流エリアと乱流エリアを組み合わせる設計が実際にはよく行われます。
乱流方式は一方向流方式に比べると清浄度はやや劣りますが、導入コストや運用コストが抑えられるのがメリットです。製造環境の要求に応じて、どの方式をどの範囲に適用するかを最適化することが運用側に求められています。
温湿度・圧力・静電気の重要性
クリーンルームでは温度や湿度を狭い範囲内に保つ必要があります。これは、半導体回路の形成工程で温度や湿度が変動すると、使用する薬剤の蒸発特性やフォトレジストの硬化状態などが変わり、不良要因につながるためです。安定した室内環境が、製造工程の再現性と歩留まりを高い水準に保ちます。
室内圧力を外部より高く設定する陽圧化により、ドアなど開口部の隙間から外部の空気が流入しないように工夫します。これを適切に維持することで、微粒子や雑菌の侵入を回避し、クリーンルーム内の清浄度を守り続けます。
さらに、静電気対策も見逃せない重要なポイントです。微小なサイズの粒子ほど、静電気の影響でウェハや装置に付着しやすくなるため、帯電防止措置や接地対策を含む総合的な設計が行われます。
半導体産業におけるクリーンルームの運用
半導体クリーンルームでは厳しい清浄度を維持するためのルールが用意されており、人や物が室内に出入りするたびに入念な対策が行われます。
重要なことは、クリーンルームの運用は設備だけでなく、運用に携わる人間の行動にも左右されるという点です。作業者がほこりや髪の毛、皮膚片などを持ち込まないように服装基準が設けられ、入室時にはエアシャワーでの除塵や手指の洗浄が義務づけられるなど、細かなルールが日々の運用を支えています。
定期的な清掃や定量的なパーティクル計測も実施し、クリーンルーム内のどこにリスクが潜んでいるかを把握することが重要です。問題が見つかれば速やかに対策を取ることで、大きなトラブルを未然に防ぎます。
また、異物管理の意識は作業者だけでなく、資材の搬入や工程間の運搬にも及びます。包装材の選定や製品の搬送経路を工夫し、塵や微粒子が発生しにくい仕組みを構築することが、高度な品質保証には欠かせません。
作業者の服装と入室手順
クリーンルーム内では作業者が塵や微生物の発生源になりかねないため、服装と入室手順は最も重視されます。無塵衣やフード、マスク、オーバーシューズなどを着用し、身体から出る微粒子を最小限に抑えるのが基本です。
また、入室前には専用更衣室での着替えと手洗いを行い、エアシャワーを通過することで衣服に付着した微粒子を吹き飛ばします。これによって日常空間に浮遊しているほこりを持ち込まないようにするのです。
こうした手順を踏むことは多少手間と時間がかかりますが、それによって微粒子管理が徹底され、クリーンルーム内の清浄度を保ちやすくなります。
クリーンルーム用の服装基準
服装基準は施設や工程の清浄度レベルによって異なりますが、共通しているのは肌の露出を極力減らし、人体から発生する微粒子の飛散を抑えるという考え方です。フード付きの無塵衣を使用し、髪の毛や皮膚片が露出しないように装着します。
マスクや安全めがね、手袋も必要に応じて装着し、発塵のリスクが高い素材の私物を持ち込むことは厳しく制限されます。これらの徹底した対策により、人がクリーンルーム内にもたらす粒子を最小化するのです。
作業内容によって、厳しい基準の全身カバーを必要とする場合もあれば、部分的に無塵衣を着用するだけの場合もあります。いずれにせよ、利用者全員が同じルールを守ることで、清浄度を維持しやすくなります。
入室時のルールと注意点
入室手順では、エアシャワーを利用して衣服に付着したほこりを吹き飛ばすと同時に、靴底クリーナーなどを使って足裏の汚れも除去します。入室前に手指を洗浄・消毒し、マスクなどの装着が不完全でないかを確認することも必須です。
入室時には、私物や食品など異物を伴う可能性のあるものの持ち込みを制限します。必要に応じて持ち込む計測機器や工具は、事前に清浄化してから搬入するルールが定められている場合が多いです。
注意すべきなのは、作業者が清浄度を乱す最大の原因になり得るという点です。徹底した入室管理と装備点検が、クリーンルームを守る基盤となります。
異物混入対策と微粒子除去技術
クリーンルームでは、異物の「持ち込まない」「発生させない」「堆積させない」「排除する」という四原則を徹底し、微粒子の発生や侵入を抑えます。日常的な清掃やフィルターの交換はもちろん、作業で使用する工具や材料も異物抑制への配慮が不可欠です。
近年では、ミニエンバイロメントの活用が進み、装置内部だけをより高度にクリーン化する手法が取られる場面もあります。これだと大規模クリーンルーム全体を最も厳しい清浄度に保つ必要がないため、効率よく異物を抑制でき、コストダウンにもつながります。
実際には工程や設備ごとに異物監視の手法が異なるため、定期的な測定と分析を行い、問題がないかを検証することが重要です。異物を確実に除去・防止するためには、運用ルールの見直しや改善を継続的に行う姿勢が大切なのです。
製造環境における温度・湿度管理のテクニック
半導体製造工程では、極めて高い再現性が求められるため、温度や湿度のわずかな変化が歩留まりに大きく影響します。季節によって外気温や湿度が変動するため、空調システムが自動調節する仕組みを導入し、室内条件を安定化させる取り組みが欠かせません。
大量の装置が発熱するため、クリーンルーム内では常に熱負荷がかかっています。冷却水循環や排熱装置を組み合わせて効率よく温度を管理し、消費エネルギーを最小化するノウハウが重要となります。
湿度管理は静電気対策や薬品の品質管理にも関係があり、通常は厳密な制限値の範囲を維持します。必要に応じて加湿や除湿を行い、一定の環境を守り続けることで、微細加工の安定性や製品の品質を確保するのです。
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まとめ
クリーンルームは半導体の精密な回路形成を支える要であり、現代社会において欠かせない存在となっています。
微粒子や汚染物質を徹底的に制御することで、高度な技術を必要とする半導体製造が可能になりました。さらに、医療・バイオ分野など用途の広がりとともに、クリーンルーム技術は今後も進化を続けていくでしょう。
一方で、クリーンルームの設備投資や運用コストは大きく、得られるメリットとのバランスを意識する必要があります。最新の技術を取り入れつつ、運用ルールと作業者の教育を充実させることで、より高品質な製品を効率的に生み出せるようになるはずです。
今後、半導体の微細化がさらに進むことを考えると、より高度なクリーン環境の構築や静電気管理の強化は避けて通れない課題といえます。日々変化する技術トレンドに合わせて、クリーンルームも絶え間ない改善と進化を続けていくでしょう。
クリーンルーム内の半導体製造装置では、微細なコンタミネーション対策や歩留まり向上のため、耐薬品性・純粋性・防汚性の高いフッ素樹脂コーティングが採用されています。
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