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熱可塑性とは?熱可塑性樹脂の特徴、種類、活用法を解説

熱可塑性とは、プラスチック樹脂の持つ、加熱すると柔らかくなり冷やすと硬くなる性質で、可逆性を持つことを表します。樹脂の持つ熱可塑性は成形やリサイクルを容易にするため、非常に便利な性質といえるでしょう。
この記事では、熱可塑性樹脂の種類や活用法について解説します。

熱可塑性とは

熱可塑性とは、物質に熱を加えることで柔らかくなり冷やすと固くなることが可逆的に起こる性質を指します。金属やガラス、高分子に見られる性質です。

熱可塑性という言葉自体は主にプラスチックの性質に対して使用されることが多く、この性質を持つプラスチックは熱可塑性樹脂と呼ばれています。

熱可塑性樹脂は、加熱だけで形状変化させることができるため加工が容易であり、また再加熱によってリサイクルが可能であるなどの性質を持っています。

熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂の違い

熱可塑性樹脂としばしば比較対象となるのが、熱硬化性樹脂です。

熱硬化性樹脂も加熱で融ける性質は同じですが、一定温度を超えると化学変化を起こし、硬くなる点が異なっています。この硬化は、不可逆の反応です。

一般に熱硬化性樹脂のほうが耐熱性や耐薬品性、機械強度に優れています。しかし、熱硬化性樹脂は化学的に変化しているため廃棄物の再利用や再生ができません。

一般に熱可塑性樹脂のほうが成形しやすく、大量生産にも適しています。

結晶性樹脂と非結晶性樹脂

熱可塑性樹脂をさらに分類する観点として、結晶性樹脂か非結晶性樹脂かという違いがあります。同じ熱可塑性樹脂に分類される素材であっても、結晶構造を含むか否かで物理的な性質が異なるためです。

結晶性プラスチックは冷却時に部分的に分子が規則正しい結晶構造を持ち、硬く丈夫で、耐熱性も高い傾向があります。

非結晶性プラスチックは結晶部分を持たず、透明性があって耐衝撃性に優れる点が特徴です。

寸法精度と透明性

熱可塑性樹脂は、成形時に冷えて硬化する際に収縮を起こします。この収縮率が、成形時の寸法精度に影響を与えるのです。一般に結晶性樹脂の収縮率は1%から4%程度、非結晶性樹脂は0.2%から0.7%であり、寸法精度に関しては非結晶性樹脂が優れています。

また、結晶性樹脂は結晶部と非結晶部が混ざり合っており、それぞれ屈折率が異なるため素材としては不透明になります。しかし、結晶化する温度の付近で急激に低温にすると、結晶化できずに硬化します。これによって非結晶樹脂と同様の透明性を与えることができます。この性質を利用しているのが、ペットボトルに用いられるポリエチレンテレフタレートです。

熱可塑性樹脂の用途

熱可塑性樹脂は、私たちの身近にある生活用品から産業用の部品まで幅広く活用されています。こうした用途に応じた分類を行うと、まず大別されるのが汎用プラスチック、そしてエンジニアリングプラスチックの2種類です。

エンジニアリングプラスチックは、さらに汎用エンプラとスーパーエンプラという2つの系統に分かれます。スーパーエンプラは汎用エンプラに比べ耐熱性や難燃性といった機能性に優れており、金属部品の代替にも使用されるプラスチックです。

汎用プラスチック

汎用プラスチックは、合成樹脂の中で最も一般的な素材です。プラスチックの生産量の約8割を汎用プラスチックが占めており、加工性に優れ、安価で大量生産に向いているのが特徴です。

ポリエチレン(PE)

ポリエチレンは、低密度ポリエチレン(LDPE)と高密度ポリエチレン(HDPE)に分けられます。結晶性の熱可塑性樹脂であり、軽くて柔らかいことが特徴ですが、耐水性や耐薬品性にも優れています。

主な用途は、包装用のフィルムや液体容器などです。ポリ袋やお菓子の包装紙、洗剤や消毒液の容器などの形で私たちの身近で活用されています。

ポリプロピレン(PP)

ポリプロピレンも結晶性の熱可塑性樹脂であり、汎用プラスチックの中で最も比重が軽く、耐熱性を持つのが特徴です。

自動車部品や医療器具、電子レンジの容器にも使用されます。また、ロープなどに利用されるのは引張強度が高いためです。

紫外線に弱い特徴を持つため、屋外では塗装を施されて使用されるケースが多くなります。

ポリ塩化ビニル(PVC)

ポリ塩化ビニルは非結晶性の熱可塑性樹脂で、塩ビやビニールとも呼ばれます。耐薬品性や耐油性に優れ、難燃性で電気絶縁性の高さも特徴です。

製造コストの低さから日用品や建築資材として幅広く活用されており、ホースや水道管、また電線の被覆にもポリ塩化ビニルが活用されています。

ポリスチレン(PS)

ポリスチレンは非結晶性の熱可塑性樹脂です。耐水性に優れ、食品容器やCDケースなど多くの用途に使用されています。

ポリスチレンを発泡成形したものが発泡スチロールであり、断熱保存に適した素材として私たちの身近で広く活用されています。

ABS樹脂

ABS樹脂は、アクリロニトリルとブタジエン、スチレンの3種類の有機化合物を共重合させて作られた樹脂です。

成分比率を変えることで製品の目的に合わせた性質を実現できる樹脂であり、家電や電子機器類、雑貨などに使用されています。

エンジニアリングプラスチック

汎用プラスチックの欠点を改良し、機能性を高めたプラスチックがエンジニアリングプラスチックです。耐熱性や強度に優れており、特に耐熱性や難燃性などの機能性を高めた樹脂はスーパーエンジニアリングプラスチックと呼ばれます。

ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)

ポリエーテルエーテルケトンは、PEEKと表記されるスーパーエンプラです。機能性は熱可塑性樹脂の中で最高クラスですが、非常に高価なため用途が限られる樹脂です。

過酷な環境に適しており、交換が難しい機構部品や宇宙用、航空機用の部品にも採用されています。

基本グレード以外にも耐熱グレードや摺動グレードなど配合比率によって特定の機能を特に高めたグレードがあります。

ポリフェニレンサルファイド(PPS)

ポリフェニレンサルファイドは、220℃から240℃程度の高い耐熱性をもち、かつ流動性に優れるため薄肉化が可能なスーパーエンプラです。

疲労特性やクリープ性に優れており、自動車などの機構部品やバルブ、歯車、ピストンリングといった用途に用いられています。

難燃性で絶縁材料としても優れているため、電子部品や電気部品に使用されることもあります。

ポリエーテルイミド(PEI)

ポリエーテルイミドは耐熱水性や電気絶縁性に優れたスーパーエンプラです。

コネクタやプリント基板、航空機用部品などで使われますが、高圧蒸気や放射線に強く、繰り返して滅菌できるという特性を活かし医療機器関連でも使用されています。

ポリアミドイミド(PAI)

ポリアミドイミドは耐摩耗特性が高く、275℃という高温でも強度と剛性を維持できる点が特徴のスーパーエンプラです。

無潤滑ベアリングやピストン、ギア、スラストワッシャーなど、自動車産業や航空宇宙産業向けの成形部品と機械加工部品で使用されています。

絶縁性や耐腐食性を与えるコーティング素材としても、高性能です。

非常に高価なため、PAIの特性が求められるケースでのみ使用されます。

ポリサルホン(PSU)

ポリサルホンは、琥珀色が特徴のスーパーエンプラです。成形加工性に優れ、また金属を上回るほどの耐薬品性や耐加水分解性を発揮します。

主な用途は、医療機器の金属代替素材やガラスの代替素材としての利用です。

熱水に強く耐アルカリ性が高いため、繰り返しの滅菌が必要な医療機器や電子レンジの部品としても使われています。

ポリアミド6・ポリアミド66(PA6・PA66)

ポリアミド6やポリアミド66は、一般にはナイロンの名称で知られる汎用エンプラです。高い靭性や耐摩耗特性を誇り、染色性にも優れています。

衣料用繊維のイメージが強い樹脂ですが、実は全体の半分以上の割合が自動車や電子機器類への使用です。

6や66は炭素原子の数を表していますが、66は「66個」ではなく炭素原子6個を含む有機物2種の重合体であることを示しています。

ポリエチレンテレフタレート(PET)

ポリエチレンテレフタレートは、ペットボトルの素材として私たちの身近にある汎用エンプラです。エンジニアリングプラスチックとしては、ガラス繊維などで強化が可能で、耐熱性や耐寒性に優れるという特徴をもちます。

飲料の容器や衣料用の繊維といった日用品に使用されますが、強化PETは機械部品の素材として用いることも可能です。

ポリブチレンテレフタレート(PBT)

ポリブチレンテレフタレートは、PBTと略称します。耐薬品性や電気特性が優れており、寸法安定性も高く加工しやすいエンプラです。

家電や電子部品、自動車の電装部品などに使用されますが、高い伸縮性による加工のしやすさから、衣料品の繊維のひとつとしても活用されています。

変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE)

変性ポリフェニレンエーテルは、エンプラでもっとも軽く、機械的性質のバランスに優れた樹脂です。

自動車の外装や電装部品、複写機のシャーシや電源アダプター、医療用の器材などに用いられます。耐加水分解性にも優れています。

ポリアセタール(POM)

ポリアセタールは結晶性の汎用インフラです。耐摩擦性や耐疲労性に優れており、外装や筐体、機構部品や駆動部品に用いられます。

自家用車のスライドドアシステムにも使われています。

ポリカーボネート(PC)

ポリカードネートは、透明性が高く、丈夫な樹脂材料として知られている非結晶性の汎用エンプラです。

合成樹脂の中でも耐衝撃性に関してはトップクラスの性能を誇り、携帯端末のケースやカメラ、眼鏡のレンズ、車のヘッドランプなどに活用されています。

エラストマーとゴム

一般にはゴム弾性を持つ熱可塑性樹脂を「エラストマー」と呼び、ゴム弾性を持つ熱硬化性樹脂を「ゴム」と呼びますが、正確にはエラストマーとは、弾性のある高分子材料を総称する用語です。したがって、本来はゴムもエラストマーの一種です。

ゴム弾性を持つ熱可塑性樹脂のエラストマーは、熱を加えると軟化する性質をもち、射出成形による加工が可能な素材です。

熱で軟化するため、耐熱性については他の樹脂より劣っています。

比重は水より小さく、安価で再利用が可能な樹脂です。

まとめ

熱可塑性樹脂について説明しました。熱可塑性樹脂にさらに機能を追加する表面処理の検討や、さまざまな熱可塑性樹脂の特長を表面処理として利用してみたい方はお問い合わせからご連絡ください。

また、熱可塑性樹脂へのコーティングだけでなくゴム素材にすべり性や非粘着性を付与できるコーティングもあります。

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