表面処理のご相談

耐摩耗性とは何を指す?向上させる方法も紹介

機械部品の素材を決めるうえで指標となるものの1つが、耐摩耗性です。
この記事では、耐摩耗性を決める要因や、耐摩耗性に優れた素材とそうではない素材について解説します。また、素材の耐摩耗性を高める方法も併せて紹介します。

耐摩耗性とは?

摩耗とは、2つのものが接触しながら動くとき、一方または双方が磨滅する(すり減る)ことです。耐摩耗性とは、摩耗に対する耐性、つまり素材の削れにくさを表す言葉です。

動きながら触れ合う部品の素材を選ぶ際には、耐摩耗性が重要です。素材同士が擦れたり引っかかったりする環境において、繰り返しの使用に耐えて性能を維持できるかどうかは素材の耐摩耗性に依ります。

耐摩耗性を決める要因

耐摩耗性を決める要因は素材の硬さや組織、成分などさまざまです。

また、この素材の耐摩耗性はこの程度と必ず決まっているものではなく、素材同士の相性も耐摩耗性に関係するため、使用条件に近い環境を作り出したうえで測定する必要があります。

硬さ

基本的に、素材が硬いほど耐摩耗性は大きくなるといえます。「ロックウェル硬さ」という工業材料の硬さを示す指標において40HRCあたりが目安です。40HRC以下の素材は摩耗しやすく、以上の数値のものは摩耗が少ない素材といえます。

ただし、接触物同士の硬度差も影響するため、硬い素材とやわらかい素材を触れ合わせない方がよいでしょう。

また、素材の内部の残留応力も耐摩耗性に影響し、少ないと耐摩耗性が向上します。鋼材において焼き入れと焼き戻しをセットで行う理由は、残留応力を少なくするためです。

組織

耐摩耗性を向上させたいときは、有効鋼材の焼入れ時に生じる微細で硬い組織(マルテンサイト)が有効です。ただし、高炭素鋼や高合金工具鋼などでは、すべてがマルテンサイトに変化するわけではなく、2割から3割程度の部分が耐摩耗性の低い残留オーステナイトになります。

鋼材において残留オーステナイトをマルテンサイトへと変化させる方法が、サブゼロ処理です。サブゼロ処理では、焼入れ後の鋼材を0℃以下まで急速に冷やすことでマルテンサイトを生成し、耐摩耗性を高められます。

成分

素材に含まれる成分の違いも耐摩耗性を左右します。耐摩耗性に関わる成分として代表的なものは炭素です。

鋼材は炭素の量が0.6%を超えると、焼入れ後の硬さがほぼ一定になります。一方で、耐摩耗性はそこで安定してしまうわけではありません。含まれる炭素量が多ければ多いほど鋼材の耐摩耗性は向上します。

そのほか、W・Cr・V・Moなども、添加されると耐摩耗性が向上する成分です。耐摩耗性が求められる状況に使われる素材には、これらが多く添加されています。

環境

前述の3つの要素だけでは十分な耐摩耗性を得られないことがあります。

使用環境の温度や、触れ合う素材同士の相性、素材の形状なども耐摩耗性に影響するため、テスト時は想定する使用環境を再現しなくてはなりません。

また、製造現場で起こる摩耗には、相手材の荒れた表面や粒子状物による「ざらつき摩耗」と摩擦熱による「スラスト摩耗」があるため、摩耗の種類についても考慮する必要があります。

耐摩耗性が高い素材

素材を選ぶ際は、耐摩耗性と耐衝撃性が重要です。ここからは、耐摩耗性が高い素材を紹介します。ただし、前述のとおり同じ素材でも環境によって摩耗性は変わるため、一例としてご参考ください。

炭素鋼

炭素鋼とは、鉄をベースにした合金のうち、炭素以外の元素をほとんど含まない鋼のことです。炭素量の含有量によって、低炭素鋼・中炭素鋼・高炭素鋼の3種類に分類されます。

炭素鋼は鉄系の素材としては耐摩耗性が高いものの1つで、さまざまな場面で使われる素材です。含有する炭素の量によって性質が変化し、炭素量が多いと焼きが入りやすくなります。

また、炭素量が多ければ多いほど耐摩耗性は向上する一方で、炭素量が多いともろくなる側面も持ちます。

セラミック

セラミックは、酸化物、窒化物、炭化物、ホウ化物などの無機物を成形し、加熱して固めた素材です。高い耐摩耗性に加えて耐熱性にも優れているという特徴があります。一方で耐衝撃性は低めのため、強い力がかかると割れてしまいます。

大量生産に向いており、液晶画面や自動車部品、食器などに用いられることが多く、日常で目にする機会が多い素材の1つです。また、人工骨や歯の被せものなど、医療用の器具に用いられることもあります。

クロム

クロムは、鉄やステンレス等の合金の材料として使われる金属です。鋼にクロムを加えると粘りが増し、耐摩耗性や耐熱性、耐食性が向上します。合金の素材として活用する以外には、メッキに使われることも一般的です。

ただし、クロムメッキ同士の摩耗で潤滑剤がない場合、焼き付きの発生によって耐摩耗性が低下します。これは似た素材同士が触れ合うことで凝着し、滑りにくくなるためです。

耐摩耗性が低い素材

日常でよく目にする素材には、耐摩耗性が低いものもあります。耐摩耗性が低い素材は削れやすく、使用時に気を付けないと消耗が早くなります。素材の特性を把握し、状況に応じて適切なものを選べるようにしましょう。

ここでは例として、耐摩耗性が低い素材を2つ紹介します。

ステンレス

ステンレスは「錆びにくい」という意味の言葉を語源に持ち、その名のとおり耐食性の高さが特徴です。また、耐衝撃性や耐熱性も高く、加工しやすいという特徴もあります。食器や調理用具などに使われることが多く、日常で目にする機会の多い素材の1つです。

一方で耐摩耗性は低く、削れやすいという特徴を持ちます。ステンレスは成分によっていくつかの種類に分けられ、比較的耐摩耗性が高いものもあります。ただし摩耗性が高いステンレスは、摩耗性が高くないものよりも高価です。また、一般的なアルミと比較した場合はステンレスの方が硬く、耐摩耗性に優れます。

チタン

チタンは硬度が高く錆びにくいという特性を持ち、工業でよく使われる素材です。一方で摩耗しやすいという性質も持ちます。これは、水や酸に反応して溶解する活性金属であることと、熱伝導率が低いために擦れる部分が高温になりやすいことが原因です。また、チタンの表面は不動態被膜に守られていますが、これが摩擦や化学反応によって壊れると脆弱化してしまいます。

チタンは工業において、耐摩耗性の低さをカバーしつつ硬さや錆びにくさを活かすために、耐摩耗性の高い素材で表面加工を施して使われます。

耐摩耗性を上げる方法

耐摩耗性の低い素材を使わなくてはならないときに、耐摩耗性を向上させる方法はあるのでしょうか。ここでは、部品の摩耗を防ぐための方法を3つ紹介します。摩擦による劣化を防いで、少しでも長く使えるようにしましょう。

表面処理加工・コーティングを施す

本体を覆うように耐摩耗性の高い素材で表面処理すると、内側の素材を摩擦から守れます。ただし、コーティングを選ぶときは耐摩耗性だけではなく、密着性や強度も考慮して選ぶことが重要です。

摩耗は触れ合う素材の組み合わせによる影響が大きく、特に同種材料が触れ合う環境では摩耗による影響は大きくなります。また、耐熱性や耐食性など耐摩耗性以外にも高めたい項目があるときは、より慎重にコーティングを選ぶ必要があります。

摩擦が生じにくい形状にする

耐摩耗性が低い素材でも、加工によって表面の仕上がりをコントロールし、摩擦が生じにくい形状にすることで、摩耗による影響を抑えられます。表面を荒らしたり(ブラスト処理)、細かな凹凸のある表面(梨地)にしたりするとよいでしょう。相手材との接触面が小さくなり、摩擦による負担を減らせます。

また、金属の表面に潤滑性の高い層を構成させる処理も効果的です。素材同士の滑りをよくすることで、摩擦が起こりにくくなります。

硬い素材を使う

摩耗させたくない素材が接触する相手材よりも硬いと、摩擦によるダメージを受けにくくなります。

また、高周波焼入れを施すと、部品の表面の硬度を向上させられます。硬度が上がると耐摩耗性だけでなく疲労強度も向上し、機械的強度が上がります。

ほかにも、表面を窒化処理したり、PVDコーティングを施したりすることでも、硬度の向上が可能です。

耐摩耗性メッキに使われる金属

メッキには、乾式、湿式など処理の方法によってさまざまな種類があります。この章では湿式メッキについてご紹介します。

耐摩耗性メッキとして使われる金属素材には、以下のものが例に挙げられます。

  • クロム:表面を硬くすることで摩耗を防ぐ効果があり、機械部品軸受や金型などに使われます。
  • 硬質貴金属(ロジウム、白金):耐食性の向上を目的として電気接点などに使用される金属です。表面を硬くすることで摩耗を防ぐ効果もあり、電極や摺動部などに使われます。
  • ニッケルフッ素樹脂:ニッケルメッキも耐摩耗性に優れますが、フッ素樹脂を混ぜることで滑りをよくして摩耗しにくくする効果もあります。

それぞれ特徴が異なるため、素材の性質を理解したうえで、用途に応じて適切な加工を施すことが大切です。

まとめ

耐摩耗性は、素材・部品を長持ちさせるために着目したい特性です。耐摩耗性が低い素材で作られた部品を摩耗に強くしたい場合には、耐摩耗性メッキ・コーティング処理が有効です。硬度・低摩擦性・弾性などに優れた素材で表面処理を行うと、コーティング剤の特性を部品に付与し、摩耗しにくくなります。

吉田SKTでは、耐摩耗性に優れた表面処理を行っています。摩耗による劣化防止を目的とした表面処理をお求めの際はぜひご相談ください。