表面処理のご相談

エラストマーとは?分類と用途について解説

一般的にエラストマーというとき、柔軟性と弾性をもち射出成形が可能な高分子素材のことを指します。成形加工の柔軟性や用途に応じた対応性から素材として注目されています。
この記事ではエラストマーの分類とその特性、シリコーンやゴムとの違い、さまざまな用途について解説します。

エラストマーとは、柔らかく弾性をもつ射出成形可能な高分子の素材、材料

一般的にエラストマーとは、柔らかく弾性をもった射出成形が可能な高分子の素材、材料のことです。JISでは、「室温で、弱い応力でかなり変形した後その応力を除くと、急速にほぼ元の寸法および形状に戻る高分子材料」とされています。ここでは、エラストマーの用途と分類について解説します。

エラストマーの特徴と活用性

エラストマーはelastmerと表記し、elastic(弾性)とpolymer(高分子化合物)の合成語とされています。粘性と弾性をもつ高分子化合物で、架橋ネットワーク構造を持った非晶質の高分子化合物です。
熱可塑性エラストマー、熱硬化性エラストマーの2種類があり、一般的には射出成形が可能な熱可塑性エラストマーを指します。熱可塑性トラストマーはThermoplastic Elastomers、略してTPEとも表記します。
プラスチックと同じように金型に射出成形することで量産が可能な素材です。

エラストマーと天然ゴム、合成ゴムとの違い

天然ゴム・合成ゴムは共に熱硬化性エラストマーに分類されます。未加硫のゴムに硫黄を混ぜて加熱することで分子鎖の一部を硫黄が架橋し、弾性をもつ加硫ゴムとなります。

熱可塑性エラストマーは、加硫ゴムに比べて強度面では劣るものの、以下の点がメリットです。

  • 比重が小さい
  • 射出成形がしやすい
  • 着色がしやすい
  • 再利用できる

エラストマーとシリコーンゴムとの違い

広義でいうとエラストマーはゴム状の弾性体を指すため、シリコーンゴムもエラストマーに分類されます。一般的な熱可塑性エラストマーとの違いは、熱可塑性エラストマーの多くが石油を原料とするのに対し、シリコーンは酸化ケイ素を還元した金属ケイ素に化学反応を施して作られた物質である点です。

シリコーンは熱硬化性をもち、加硫されることで弾性をもつため、ゴムの一種とされます。耐熱性に優れ低温環境下にも耐性があり、耐候性に優れています。加硫されているため成形後のリサイクルはできません。

エラストマーのメリットとデメリット

エラストマーの主なメリットは薬剤の心配がない点で、デメリットは耐油性・耐熱性の低さです。
一部のポリ塩化ビニル素材は、食器で利用する際、含まれる添加剤の影響が懸念されています。しかしエラストマーはそうした添加剤を必要としません。そのため、食器として使用してもリスクが少ない点はメリットです。
そのほか、加工しやすくリサイクルできる点など、多くのメリットがあります。
デメリットとしては、種類によっては耐油性が低く、溶出のリスクがあります。また耐熱性が高くないため高温環境下で使用される部品の素材としては不向きです。

 

熱硬化性エラストマー

一般的に熱によって柔らかくなりやすいエラストマーですが、加熱しても軟化しないエラストマーに熱硬化性エラストマー(Thermosetting Elastomers)があります。たとえば、フッ素ゴムや、先ほど説明したシリコーンゴムなどです。

ここでは、熱硬化性エラストマーについて紹介します。

熱硬化性と熱可塑性の違い

熱可塑性エラストマーは、熱を加えると軟化し、冷やすとゴム状に戻る素材でした。一方熱硬化性とは、加熱により架橋などが生じて構造が変化し、冷やしても元に戻りません。
熱硬化性エラストマーは耐熱性や耐久性に優れますが、その性質上リサイクルが不可能というデメリットがあります。
なおエラストマーとは、熱可塑性エラストマーを指す場合が多く、一般的に「ゴム」と呼ばれる素材は熱硬化性エラストマーを指します。

不飽和系熱硬化性エラストマー

不飽和系熱硬化性エラストマーの「不飽和」とは、化学上は炭素原子間に二重結合を持っているという意味です。この二重結合が開くことで形成されるものが、硫黄や他の架橋材を用いてできる加硫もしくは架橋です。
架橋は分子構造を三次元化し、耐熱性、耐久性を高めますが、素材としてリサイクルすることは難しくなります。天然ゴムや合成ゴム全般、ポリブタジエンやスチレンブタジエンゴムといった素材が該当します。

飽和系熱硬化性エラストマー

飽和系熱硬化性エラストマーは二重結合を持たないため開環による反応は生じません。このため熱や放射線、酸素やオゾンといった環境因子に対して高い安定性を持っている点が特徴です。
アクリルゴム、シリコーンゴムやフッ素ゴムなどが飽和系熱硬化性エラストマーに該当します。
環境因子による反応は、特定の条件下でしか発生しませんが、そうした環境に強い素材といえます。

熱可塑性エラストマー

熱可塑性エラストマーは、射出成形やリサイクルが可能な点から素材としての活用の幅が広い反面、耐熱性・耐久性が課題です。このため、さまざまな工夫によって素材特性を高め、用途によって使い分けられています。

スチレン系熱可塑性エラストマー

スチレン系熱可塑性エラストマーの基本単位は、ハードセグメントとソフトセグメントをブロック状に共重合させたものです。末端ブロックのポリスチレンが架橋点の役割をすることで弾性をもつようになります。架橋点が多いほど耐熱性や耐油性が向上します。

オレフィン系熱可塑性エラストマー

オレフィン系熱可塑性エラストマーは、ハードセグメントにポリプロピレンが、ソフトセグメントにエチレンやプロピレンゴムが用いられます。
軽量でかつ、高温時でも高いゴム弾性を維持するため耐熱性や柔軟性の維持が求められる素材として活用されています。

ポリエステル系熱可塑性エラストマー

ポリエステル系熱可塑性エラストマーは、ハードセグメントに芳香族ポリエステルを、ソフトセグメントに脂肪族ポリエーテルを採用した素材です。
耐寒性・耐オゾン性・流動特性に優れ、やや高価ですが特性のバランスが良いため、自動車やエレクトロニクス部品に用いられます。
架橋ゴムを採用した場合よりも軽量化が可能です。

塩化ビニル樹脂系熱可塑性エラストマー

塩化ビニル樹脂系の熱可塑性エラストマーは、ハードセグメントにポリ塩化ビニルを、ソフトセグメントにニトリルゴムを用います。ソフトセグメントの配合比率で硬度を自由に調節できる点が特徴です。
古い素材ではあるものの耐候性が抜群によく、熱可塑性エラストマーでは最も安価な素材です。
脱PVCの流れでは敬遠される場合もありますが、自動車内装品や電化製品などで未だに多くの需要があります。

ウレタン系熱可塑性エラストマー

ウレタン系熱可塑性エラストマーは、エラストマーとしては非常に古い素材です。ハードセグメントにポリウレタンを、ソフトセグメントにポリエステルやポリエーテルを用いており、機械強度・耐油性・耐摩耗性やゴム弾性に優れます。靴底やベルトなどに使われますが、耐熱性が劣る点がデメリットです。

ポリアミド系熱可塑性エラストマー

ポリアミド系熱可塑性エラストマーは、ソフトセグメントに脂肪族ポリエステルやポリエーテルを採用し、ハードセグメントには脂肪酸ポリアミドが用いられています。
柔らかい素材ですが屈曲の繰り返しに強く、また耐油性や耐薬品性が非常に良好な素材です。
スポーツシューズやベルトなどに用いられますが、素材としては非常に高価である点がデメリットです。

エラストマーの使用例

エラストマー(以下表記の長いものはTPEと略)はゴム製品の代替素材として需要を拡大してきました。しかし現在ではその特性を活かし、接着剤やコーティング素材、日用品や自動車部品から医療機器までその用途を広げています。素材の発展に伴い、その用途はさらに広がることが期待されています。

接着剤やコーティング資材

エラストマーは、テープやラベル、高機能粘接着剤として優れています。接着剤としてはスチレン系エラストマーが、保護フィルムやコーティング素材としてはシリコーン系のエラストマーが用いられます。熱可塑性を活かした活用法は、スプレーコーティングやシーリング素材としての活用です。
アクリル系エラストマーも、耐熱性・柔軟性・粘着性に優れ、シールやフィルムに活用されています。

日用品

エラストマーは、耐候性に優れ丈夫でありながら肌に近いソフトな感触と快適な使用感を得られる素材があるため、日用品も活用範囲です。
安全性からポリ塩化ビニルの代替品として子ども用おむつのウエストバンドやおもちゃに使用される例も増えています。
また、環境系プラスチックをセグメントに活用するバイオ系TPEは、環境負荷の軽減という観点で今後ニーズが高まると予想されます。

自動車

熱硬化性エラストマーは耐溶融性に優れているため、タイヤの素材や、自動車部品におけるシール素材、耐熱性が要求される部品製造にも活用されています。
自動車設計における特定のシール、または動作中熱にさらされるコンポーネントの製造も採用範囲です。
熱可塑性エラストマーを含めると、振動の伝達を軽減する振動減衰用の素材や耐候性が求められるワイパー部分など、エラストマーを採用する例が増えています。

電子機器

エラストマーが近年採用を増やしている用途が電子機器の分野です。
各種ケーブルの被膜として採用されるだけでなく、光ファイバーのケーブル内部を満たして保護する充填剤にもエラストマーが採用されています。
ポリエステル系熱可塑性エラストマーは、エレクトロニクス製品の部品としても活用されており、さらにスマートウォッチや各種センサーのリストバンドなどでもエラストマーが活用されています。

工業建築

エラストマーは他のプラスチック素材に比べ揮発性有機物の含有量が抑えられるため、床材などの建材としても有効です。
亀裂や空隙を埋める充填剤や電気ケーブルの絶縁材料など、エラストマーの活用幅は広く、
工業用のシーリング素材や金属加工時の冷却と成形の潤滑剤も、エラストマーの特性が有効な使用例です。石油などを扱うホースやシール部分、工業用のベルトなど今後も採用例は増えると期待されています。

農業

農業においてもエラストマーの活用は広がっています。
耐候性や耐水性に優れている点から、酪農業において家畜に割り当てる名札はエラストマー製です。また食品製造工場におけるコンベヤベルトは多くが耐久性の高いエラストマーで作られています。
作物を環境変化から守るビニールハウスのフィルムや霜防止のフィルムなども、エラストマーが活用できる分野です。

医療

医療分野では、柔軟性と弾性が求められる輸液パックやチューブ、手袋などにスチレン系熱可塑性エラストマーやシリコーン系のエラストマーが採用されています。
一部のエラストマーには医療用グレードもあります。
また医療機器は殺菌・滅菌作業が欠かせませんが、エラストマーは電子線・ガンマ線などのさまざまな殺菌処置への耐性が高く、医療器具に向いた素材です。

まとめ

このようにエラストマーはその特性を活かしさまざまな用途で用いられています。
特に熱可塑性エラストマーは加工性の良さや、用途に応じた特長から幅広い分野で採用されています。一方で、熱可塑性エラストマーを成形する際は金型の脱型や、設備へのはりつきなどでトラブルが発生することもあります。

エラストマー製品の成形や生産でのはりつき、くっつきトラブルを解消するために、表面処理を採用される例が増えてきています。
新しい製品開発や、さらなる生産性向上を検討される際は、表面処理の活用について吉田SKTにご相談ください。