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ステンレス鋼とは?特徴や種類、用途、選定方法を解説

ステンレス鋼は身近な生活用品から医療器具や航空機部品まで、広範囲に用いられている金属です。

主成分は鉄ですが、炭素やクロム、ニッケルなどの含有物の種類や量によって主に5つの系種に分類されます。それぞれ性質が少しずつ異なるため、用途もさまざまです。 この記事では、ステンレス鋼の特徴や種類、用途について解説します。

ステンレス鋼とは|特徴・概要

ステンレス鋼とは、鉄を主体に1.2%以下の炭素と10.5%以上のクロムを含有する鋼を指します。英語名はStainless steelであり、錆びないという意味のステンレスが語源です。食器や家電などの生活用品から、医療器具・航空機部品などの専門分野まで幅広く用いられています。

含有したクロムが鉄より先に酸化し不働態被膜を形成して表面を覆うため、錆に強いという性質を基本的に持つ素材です。

その種類・用途は幅広く、耐食性よりその他の性質を重視して用いられるケースもあります。

ステンレス鋼のメリット|一般的な鋼材・金属との違い

ステンレス鋼が幅広く用いられているのは、一般的な鋼材に対して錆に強い耐食性や高い耐熱性を備えているなどの利点が存在するためです。これらはステンレス鋼の特徴であると同時に、その用途にも関係します。

ここでは、ステンレス鋼の特長について解説します。

錆に強い

ステンレス鋼の名称の元となる性質であり、含有金属の不働態被膜で鉄の酸化を防ぐ特性です。

特に鉄+クロム約18%+ニッケル約8%で構成されるオーステナイト系ステンレス鋼は耐食性に優れています。接触など何らかの理由で被膜が破れた場合でも、すぐ再生します。

一方で、鉄+クロム約18%で構成されたフェライト系ステンレス鋼はオーステナイト系に比べて耐食性は劣るものの、安価で加工しやすい点がメリットです。

熱に強い

ステンレス鋼は熱伝導率が低いため、耐熱性や保温性に優れています。

身近なものでは、コップや保温性の水筒に使用されているのはよく知られています。また、高温下での使用が前提となる化学プラント用機器などにも使用されています。およそ500℃までは引っ張り強度が大きく落ちないため、過酷な高温環境下でも安定して使用できます。ただし、それ以上の温度では強度が低下し、特にフェライト系とマルテンサイトは強度の低下が大きくなる性質があります。

ステンレス鋼は耐熱性とともに、保温性にも優れています。言い換えれば放熱性が低いため、自動車のエンジン部分など蓄熱が問題になるパーツには向いていません。

剛性が高い

ステンレス鋼は鉄に炭素を加えて精製しているため、鉄より強度が高くなります。同じ強度を求めた場合、スチールよりも薄くできるため部品を軽量化できる点はメリットでしょう。ステンレス鋼の種類によりますが、熱処理(焼入れ)を行うことでさらに強度を上げられる場合があります。

剛性が高いという特性を活かし、ジェット機のエンジンや乗用車のブレーキディスクなど、人命にかかわる部品に使用されることもあります。

清潔である

ステンレス鋼は錆びにくいため、水回りなどに使用すれば塗装やメッキを施さなくても環境を清潔に保てます。食品工場の規格に準じた材料でもあるため、家庭用のキッチンや流し台などに使用されています。また、食糧品の生産工場や化学プラントなどの特殊用途にも対応できる素材です。

バフ研磨を行うことで光沢が生まれ、表面摩擦が少なくなります。これにより汚れが付着しにくくなる点も、清潔さを保てる要因です。

ステンレス鋼のデメリット・注意点|加工しづらい

熱伝導性が低いため切削加工時に熱が逃げにくく、加工しづらい点がステンレス鋼のデメリットとして挙げられます。切削工具の先端部分に熱が貯まりやすく、破損をまねくこともあります。また、硬度は高くせん断加工も困難です。

延性・展性が高いことや溶接の熱によって変形を起こしやすい点も、ステンレス鋼が加工しにくい原因です。薄肉の切削加工を行ったり、薄板を溶接する場合には残った熱の影響で反りが生じる場合もあります。

加工硬化の性質を持つ

ステンレス鋼を使用して板金部品を作る際に、曲げ加工を行うと素材は非常に硬くなります。この現象の原因は、加工硬化です。

加工硬化とは、金属が一定以上の圧力を加えられたときその金属が硬くなる現象を指します。ステンレス鋼は加工硬化の指標が鋼板の約2倍あり、加工の際に特に注意が必要です。この性質のため再加工性が低く、加工は一発勝負で決める必要があります。

また、切削加工や研磨加工も時間をかけると加工硬化が進み、作業効率が落ちたり工具が傷んだりする原因になります。

放熱性に劣る

加工硬化に加え、放熱性に劣る点も加工を難しくしている要因です。切削加工などの際に発生する熱が逃げにくく、工具の先端や刃先に過負荷がかかって工具の寿命を短くしてしまう場合があるのです。また、薄肉切削加工を行うと加工で発生した熱が部品に残り、反りの原因となります。

こうした性質から、機械部品の設計では駆動部周辺にステンレス鋼を使うのを避け、多くの場合はアルミ合金を使います。

【種類別】ステンレス鋼の用途例

ステンレス鋼は材質の含有比率や熱処理の違いによって、さまざまな種類があります。JIS規格では65種類が規定されており「SUS+3桁の番号(+記号)」の形で表記されます。

主なステンレス鋼の種類を5つと、それぞれの代表的な用途を紹介します。

マルテンサイト系|強度が高い

炭素を0.1%~0.4%、クロムを12%~18%含んでいます。熱処理によってマルテンサイト組織が作られ、高硬度を実現したステンレス鋼です。デメリットは炭素の含有量が少なく腐食耐性に劣るため、表面に鉄などが付着しているともらい錆が発生する可能性がある点です。

ステンレス鋼の中でも特に硬く、硬度が要求される機械部品に最適です。耐熱性も高く、高温にさらされる部品にも採用されています。

SUS403、SUS410、SUS630などが該当します。

オーステナイト系|耐食性が高い

炭素を0.15%以下、クロムを16%から20%、ニッケルを8%以上を含むステンレス鋼です。耐食性が強く、熱処理しても硬化しませんが靭性が高く、溶接性も優れています。

ステンレス鋼全体の生産量の約6割に達し、有益性の高い金属材料といえます。錆に強く放熱性が高いため、電気機器の部品などさまざまな製品に幅広く使われているステンレス鋼です。

代表的な素材は、SUS303、SUS304やSUS316です。

フェライト系|加工性が高い

基本的にニッケルを含まず、硫黄系のガスに対して腐食しにくい性質を持っています。耐食性に優れ、熱処理をしても硬化が少ないため、加工後も軟質を維持することが可能です。

高い加工性により建築の内装材やガス、電気機器の部品に使われることが多い素材です。磁性を持つ点も特徴といえます。材料の価格が安く溶接性も高いため、建具や家庭用品にも採用されています。

代表的な素材は、SUS430などです。

オーステナイト・フェライト系(二相系)|耐孔食性が高い

オーステナイト系にフェライト系の金属組織を混合させたステンレス鋼です。二相系とも呼ばれます。オーステナイト系の高い強度と同レベルの耐食性を保ったまま、オーステナイト系の弱点である耐孔食性や耐応力腐食割れを向上している素材です。

耐食性や塩化物環境への耐性に優れているため、海水に触れる機器や化学プラント用装置などに使用されています。

代表的な素材は、SUS329J1です。

析出硬化系|強度と耐食性のバランスが良い

析出硬化系ステンレス鋼は、金属間化合物の析出を利用して高い強度を実現しています。主成分はクロムとニッケルで、そこにアルミニウムや銅を添加したのち析出硬化処理によってこれらの元素の化合物を分離し、硬度をアップさせています。

優れた強度と耐食性を活かしてシャフト、タービン部品などに使用されています。また、高温に強いため宇宙開発や航空機分野でも活用されています。

主な素材はSUS630やSUS631です。

ステンレス鋼の選定方法

設計でステンレス鋼を選定する場合は、主要6種類のステンレス鋼の特性を軸に選択します。

ここでは、主要なステンレス鋼であるオーステナイト系のSUS303  SUS304  SUS316と、フェライト系のSUS430、マルテンサイト系のSUS410とSUS440の特性を一覧表にまとめました。

ステンレス鋼の種類 強度 切削性 溶接性 耐食性 磁性
SUS303(オーステナイト系) × ×
SUS304(オーステナイト系) × ×
SUS316(オーステナイト系) × ×
SUS430(フェライト系) ×
SUS410(マルテンサイト系) ×
SUS440(マルテンサイト系) ×

選定にあたってはSU304を標準と考え、より切削性を求めたい場合はSUS303を、より耐食性を求めたい場合はSUS316を、磁性を重視するならSUS430もしくはSUS410を、強度を上げたい場合はSUS440を選定します。

まとめ

ステンレス鋼はその耐久性や耐腐食性など、多くの優れた特性を持っており、建築から自動車産業、さらには食品加工業界まで、幅広い用途で利用されています。さらにコーティングや表面処理を組み合わせることで、より厳しい環境下での使用にも適応できる特性を発揮することが可能です。
株式会社吉田SKTでは、専門的な知識と豊富な経験を活かし、お客様のニーズに合わせたコーティング・表面処理をご提案いたします。ご質問や具体的なご要望がありましたら、お気軽にお問い合わせください。

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