ハステロイとインコネルの違いとは?特徴・用途と腐食対策の選択肢を紹介
こんにちは。「吉田SKT」ブログ編集チームです。
ハステロイとインコネルは、いずれもニッケルを主成分とするニッケル基合金の商品名です。ハステロイ®はHaynes International社、インコネル®はSpecial Metals社グループの商標で、どちらにも成分の異なる複数の材種があります。
代表的な材種で比べると、ハステロイC276はモリブデンを多く含み、塩酸や硫酸などの酸を扱う化学設備で使われる合金です。インコネル625はクロムを多く含み、ニオブを添加した合金で、海水環境の機器や、高温で強度が必要な部品にも使われます。
この記事では、C276と625の成分・耐食性・耐熱性・加工性の違いを比較します。薬液による腐食対策を目的に耐食合金を探している方に向けて、フッ素樹脂コーティングやライニングで接液面を保護する方法もご紹介します。
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ハステロイとインコネルの基礎知識
ハステロイとインコネルは、合金のシリーズ名として使われています。ハステロイにはC276のほかC22やB系、インコネルには625のほか600や718などの材種があり、成分も用途も材種ごとに異なります。材料を比較するときは、C276や625といった材種の単位で確認します。
ハステロイC276の特徴
C276(C-276)は、ニッケルにクロム、モリブデン、タングステンを加えたニッケル・クロム・モリブデン系合金です。ニッケル協会は、この系統の中でC276が最もよく知られた合金であり、塩酸や硫酸などの還元性の酸に高い耐性を示すと説明しています。
メーカー資料では、塩化物を含む環境での孔食・すきま腐食や応力腐食割れへの耐性も特長に挙げられています。炭素とケイ素の含有量を極めて低く抑えた成分で、溶接した状態でも主要な無機酸に対して優れた耐食性を示すとされています。反応器、熱交換器、塔類などの化学プロセス機器に使われています。
出典:Nickel Institute(ニッケル協会)「ニッケル合金」/Haynes International「HASTELLOY® C-276 alloy」技術資料(英語)
インコネル625の特徴
625は、ニッケルとクロムを主体に、モリブデンとニオブを加えた合金です。モリブデンとニオブがニッケル・クロムの母相を強化する「固溶強化」によって強度を得ており、析出硬化のための熱処理を必要としません。
メーカー資料では、海水中で孔食やすきま腐食などの局部腐食を起こしにくいこと、塩化物による応力腐食割れに耐えることが特長に挙げられています。用途は、海洋関連機器、反応容器や熱交換器などの化学プロセス機器、航空機のダクトやエンジン排気系など多岐にわたります。
出典:Special Metals「INCONEL® alloy 625」技術資料(英語)
C276と625の成分・特徴を比較
2つの合金の違いは、モリブデンとクロムの量、添加元素に表れます。C276はモリブデンが約16%と多く、タングステンを含みます。625はクロムが約21.5%と多く、ニオブを含みます。
| 比較項目 | ハステロイC276 | インコネル625 |
|---|---|---|
| UNS番号 | N10276 | N06625 |
| 系統 | Ni-Cr-Mo-W | Ni-Cr-Mo-Nb |
| ニッケル(Ni) | 約57% | 約61% |
| クロム(Cr) | 約16% | 約21.5% |
| モリブデン(Mo) | 約16% | 約9% |
| 特徴的な添加元素 | タングステン:約4% | ニオブ+タンタル:約3.6% |
| メーカーが挙げる主な特長 | 酸化性・非酸化性の酸、塩化物を含む環境での耐食性 | 海水・塩化物環境での耐食性、強度、高温特性 |
| 主な用途 | 反応器、熱交換器、塔類などの化学プロセス機器 | 海洋関連機器、化学プロセス機器、航空機エンジン関連部品 |
※成分は各資料に示された公称組成(質量%)で、主な元素を抜粋しています。規格の成分範囲や納入材の保証値とは異なります。納入材の成分は材料証明書(ミルシート)で確認します。
出典:C276の成分 Haynes International「HASTELLOY® C-276 alloy」技術資料(英語)/625の成分 ローレンス・リバモア国立研究所ほか「UCRL-CONF-226569」Table 1(米国エネルギー省 科学技術情報局公開、英語)/特長・用途 Haynes International「HASTELLOY® C-276 alloy」技術資料(英語)、Special Metals「INCONEL® alloy 625」技術資料(英語)
耐食性の違い
C276と625は、どちらも耐食性の高い合金です。どちらが適するかは、接触する薬液の種類・濃度・温度によって決まります。
C276:酸を扱う化学設備
C276はモリブデンの含有量が多く、塩酸や硫酸などの還元性の酸を扱う設備で使われてきました。メーカーは、酸化性の酸と非酸化性の酸の両方に耐える材料として紹介しています。
出典:Nickel Institute(ニッケル協会)「ニッケル合金」/Haynes International「HASTELLOY® C-276 alloy」技術資料(英語)
625:海水・塩化物環境と強度を求める部品
625はクロムの含有量が多く、海水や塩化物を含む環境での局部腐食に強い材料として使われています。強度も高いため、耐食性と構造材としての強度を同時に求める部品で採用されます。
出典:Special Metals「INCONEL® alloy 625」技術資料(英語)
同じ条件の腐食データで比較する
高耐食合金でも、薬液の組み合わせや温度によっては腐食が進みます。材料を比較するときは、同じ薬品・濃度・温度で測定された腐食データを使い、全体的な腐食量に加えて次の腐食形態も確認します。
- 孔食:表面の一部に、小さな穴状の腐食が深く進む
- すきま腐食:フランジの合わせ面やガスケットの下など、狭いすきまで進む
- 応力腐食割れ:腐食環境と引張応力が重なり、割れが生じる
通常運転中の液に加え、洗浄液、停止時の残液、気相部に生じる凝縮液も腐食の原因になります。材料の選定では、これらを含めた使用条件を整理しておくと比較が進めやすくなります。
耐熱性と高温強度の違い
高温で使う部品には、酸化や腐食への耐性と、荷重を支える強度の両方が求められます。高温で長時間荷重を受けると材料が少しずつ変形する「クリープ」も考慮します。
625について、メーカー資料では極低温から982℃(1800°F)までの使用温度域が示されています。実際に使える温度は、雰囲気、荷重、使用時間、熱処理状態によって変わります。625の板材を規定するASTM B443では、焼なまし材(Grade 1)と固溶化熱処理材(Grade 2)が区分されており、高温でクリープ・破断への抵抗を求める用途では熱処理状態の指定も必要です。
出典:Special Metals「INCONEL® alloy 625」技術資料(英語)/ASTM International「ASTM B443」
C276も高温の化学プロセスで使われます。高温域に長時間さらされると、組織の変化によって耐食性や靭性が低下する場合があるため、使用温度と時間を踏まえて評価します。圧力容器や配管では、採用する設計規格に定められた温度ごとの許容応力も確認します。
溶接・切削加工の注意点
溶接
C276と625は、どちらも溶接できる材料です。溶接材料、入熱、開先形状、溶接面の清浄度によって溶接部の品質が変わるため、材種に合った施工条件を選びます。C276の溶接研究では、施工条件によって熱影響部に割れが生じた例も報告されています。
出典:山本尚嗣・廖金孫・中田一博「Ni基合金のファイバーレーザ・ミグアークハイブリッド溶接性に関する基礎的検討」日本金属学会誌 第76巻第7号(2012年)
切削加工
ニッケル基合金は、加工した部分が硬くなる「加工硬化」が起こりやすく、熱伝導率が低いため刃先に熱がこもりやすい材料です。工具摩耗も進みやすいため、材種に合った工具と切削条件を選ぶと、寸法精度と仕上げ面が安定します。
出典:片桐嵩・奥出裕亮・西村信司「Ni基耐熱合金の従動型ロータリー切削加工における工具摩耗特性」2020年度精密工学会秋季大会学術講演会講演論文集
材料を指定するときの規格
C276や625を図面や発注書で指定するときは、材種名とUNS番号に加え、板・棒・管などの製品形状に対応した材料規格を指定します。代表的なASTM規格は次のとおりです。
| 製品形状 | C276(UNS N10276) | 625(UNS N06625) |
|---|---|---|
| 板・薄板・帯 | ASTM B575 | ASTM B443 |
| 棒 | ASTM B574 | ASTM B446 |
| シームレス管 | ASTM B622 | ASTM B444 |
※代表的な規格の例です。溶接管や鍛造品は、製法・形状に対応した規格を選びます。規格の版、熱処理状態、追加の検査要求は注文仕様で確定します。
出典:ASTM International「ASTM B575」「ASTM B574」「ASTM B622」「ASTM B443」「ASTM B446」「ASTM B444」(各規格の公開概要)
腐食対策としてのフッ素樹脂コーティング・ライニング
ハステロイやインコネルを検討する理由が薬液による接液面の腐食である場合は、炭素鋼やステンレス鋼などの基材で強度を確保し、薬液に触れる面をフッ素樹脂のコーティングやライニングで保護する方法も比較候補になります。
ニッケル基合金はニッケルやモリブデンを多く含むため、一般にステンレス鋼より材料費が高くなります。接液面を表面処理で保護する構造にすると、基材は強度、加工性、入手性などから選べます。
フッ素樹脂で接液面を保護する仕組み
PFAやPTFEなどのフッ素樹脂は、ほとんどの酸やアルカリに侵されにくい材料です。コーティングやライニングでは、フッ素樹脂の被膜が薬液と基材の間に入り、基材の腐食を防ぎます。
耐食用途では、被膜の厚さと欠陥の有無が性能を左右します。被膜にピンホール(微小な貫通欠陥)があると、薬液が基材まで届きます。欠陥のない被膜でも、薬液の成分は時間をかけて樹脂の内部へ浸透します。このため腐食性の強い薬液には、厚膜のコーティングや、さらに厚いライニングを用います。
耐食合金とコーティング・ライニングの使い分け
どちらが適するかは、使用温度、荷重、摩耗、部品の形状によって変わります。比較の目安は次のとおりです。
| 比較項目 | ニッケル基合金で製作 | 基材+フッ素樹脂被膜 |
|---|---|---|
| 耐食性を担う部分 | 合金そのもの | 接液面の樹脂被膜 |
| 使用温度の目安 | 高温域まで材種ごとに検討 | 樹脂の耐食耐熱温度の範囲内(当社PFA防食仕様で約150℃まで) |
| 強度を担う部分 | 合金 | 基材 |
| 摩耗・衝撃 | 金属として受ける | 被膜の損傷に配慮する |
| 形状の条件 | 加工・溶接できる形状 | 被膜を施工できる形状 |
| 損傷時の対応 | 部品の補修・交換 | 被膜の補修・再施工を検討 |
※使用温度は当社「フッ素樹脂コーティング」ページの防食仕様(PFA、膜厚300μm)に示した耐食耐熱温度です。樹脂そのものの連続使用温度(PFA:260℃)とは評価の条件が異なります。
高温で大きな荷重を受ける部品、スラリーなどによる摩耗が激しい部分、樹脂の耐食耐熱温度を超える環境では、耐食合金の採用が検討されます。ライニングを採用する場合は、負圧(真空)での使用、基材と樹脂の熱膨張差、端部やノズルの構造、点検の方法もあわせて検討します。
費用は、材料費と加工費に加え、交換の頻度、補修、設備停止の影響まで含めて比較します。
吉田SKTの耐食コーティング・ライニング
吉田SKTでは、化学プラントの貯蔵タンク、配管、ポンプなど、薬液に触れる設備や部品に向けて、フッ素樹脂コーティングとPFAライニングを提供しています。
防食用フッ素樹脂コーティング
防食用途では、非粘着やすべり性を目的とする用途より厚い被膜で施工します。当社の主な防食仕様は次のとおりです。
| 樹脂 | 膜厚 | 耐熱温度 | 耐食耐熱温度 |
|---|---|---|---|
| PFA | 300μm | 260℃ | ~150℃ |
| ETFE | 500μm | 150℃ | ~80℃ |
| EFEP | 300μm | 130℃ | ~60℃ |
※当社の主な防食仕様です。実際の仕様は、薬液の種類・濃度・温度と基材・形状をもとに決めます。
樹脂ごとの特徴や用途別の仕様は「フッ素樹脂コーティング」の製品ページで紹介しています。PFAの性質は「PFAの特性やPTFEとの違い・成形方法や製品例まで詳しく解説」で解説しています。
耐浸透性PFAライニング「MYライニング®」
MYライニング®は、薬液の浸透を抑えることを重視したPFAライニングです。最大2,000μmの厚膜に対応し、継ぎ目のない一体の被膜を形成します。シートライニングやロトライニングでは施工が難しかった形状にも対応する工法です。
主な用途は、ダクト、ポンプ、反応槽、酸洗タンク、酸貯蔵タンクなどです。実際の膜厚や施工の可否は、基材・寸法・形状・使用条件をもとに検討します。
MYライニング®の資料では、ほかのライニング工法との比較や、薬液の浸透に関する試験データを紹介しています。PFAライニングを比較検討する際の資料としてご活用ください。
ご相談時にお伺いする内容
耐食コーティング・ライニングの仕様は、使用条件によって変わります。ご相談の際に次の情報をお知らせいただくと、検討を進めやすくなります。
- 薬品名、濃度、混合成分(洗浄液を含む)
- 常用温度と最高温度、加熱・冷却の繰り返し
- 圧力・負圧の有無、流速、摩耗の有無
- 基材の材質、寸法、図面
- 現在の材料・表面処理と、腐食や被膜劣化の状況(写真があれば添付)
まとめ
ハステロイC276はモリブデンを多く含み、塩酸や硫酸などの酸を扱う化学設備で使われる合金です。インコネル625はクロムが多くニオブを含み、海水・塩化物環境の機器や、高温で強度が必要な部品にも使われます。材種は、薬液の種類・濃度・温度、荷重、加工方法をもとに選びます。
耐食合金を検討する目的が接液面の腐食対策で、使用温度がフッ素樹脂の耐食耐熱温度の範囲に収まる場合は、基材とフッ素樹脂コーティング・ライニングを組み合わせる方法も比較候補になります。
薬液による腐食でお困りの方へ
当社株式会社吉田SKTでは、使用する薬品の種類・濃度・温度、基材や形状をお伺いし、適したフッ素樹脂コーティング・ライニングをご提案します。ハステロイやインコネルの採用を検討している設備・部品についても、表面処理で対応できるかどうかを含めてご相談ください。


