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「電気を通しにくい!」フッ素樹脂の電気特性を解説

こんにちは。「吉田SKT」ブログ編集チームです。
吉田SKTは電気特性に優れるフッ素樹脂コーティングをご提供する加工メーカーです。
電気は、多様な電化製品を通して私たちの生活を支えてくれます。一方で冬のドアノブでビリっと感じるのも電気のしわざですし、雷も電気事象のひとつです。
このように身の回りでさまざまな影響を及ぼす電気に対して、ものづくりで使われる材料がどのような性質を持つか、すなわち材料の「電気特性」はとても重要です。
この記事では、コーティング材料でもあるフッ素樹脂の電気特性について詳しく解説します。

内容をまとめた解説資料を無料でダウンロードいただけます。ぜひご活用ください。

樹脂の電気特性とは

フッ素樹脂をはじめとする樹脂(プラスチック)の電気特性としては「絶縁性」「誘電性」「耐電性」などが挙げられ、基本的に電気が流れず、とどまる性質を示します。それでは、物質に電気が流れる、流れないとはどのような事象なのでしょうか。まずは電気の流れのメカニズムを解説します。

電気の流れとは

物質に電気が流れるとき、自由電子と呼ばれる、原子核の周りにある電子の一部が隣の電子と行き来しています。例えば金属の場合、自由電子が金属原子の周りを自由に動けるため、外部から電子が入ると同じ方向へ動くことができます。これが電気の流れている状態です。

金属の電子・自由電子の動き

導体・絶縁体の違いとフッ素樹脂

導体とは、金属に代表されるように電気を良く通し電気抵抗の少ない物質です。一方、絶縁体はプラスチック(樹脂)やゴムのように電気を通さず、電気抵抗の大きい物質です。導体と絶縁体の違いは、自由電子の数の違いにあり、絶縁体と呼ばれる物質にはほとんど自由電子がありません。

プラスチックの一種であるフッ素樹脂は絶縁体に分類され、絶縁体としての電気特性において優れた性質を持ちます。

導体・半導体・絶縁対の比較
導体と絶縁体での電子の動きの比較

フッ素樹脂(PTFE)の分子構造による電気特性とは?

プラスチックの電気特性は、基本的にプラスチックを構成する高分子構造に由来します。フッ素樹脂(PTFE)は下図のように分子内の原子の配列が緻密で対称であるため、電荷の分極が極めて小さい「無極性高分子」に分類され、次のような電気特性を発揮します。

フッ素樹脂の分子構造
CF結合式
  • (1)絶縁性に優れる
  • (2) 誘電率、比誘電率が小さい
  • (3)誘電正接が低い

>PTFEについての詳しい解説はこちらをご覧ください。

以下で、それぞれの特性を詳しくご説明します。

フッ素樹脂の電気特性(1) 絶縁性

【体積抵抗率、表面抵抗率】

体積抵抗率(Ω・cm)とは、単位体積あたりの電気抵抗値を指します。
体積抵抗率は素材ごとに固有の値があります。この値を比較することで電気の通しにくさを把握することができます。

表面抵抗率(Ω/□)とは、一様の厚みをもつ薄い膜やフィルム状のプラスチック材質の電気抵抗を表す指標のひとつでシート抵抗率、面抵抗率とも呼ばれます。
フィルム等の均一で薄い膜の評価では一般的に表面抵抗率の測定が行われます。

フッ素樹脂(PTFE)の体積抵抗率は>1018、表面抵抗率は>1016と抵抗値が高く、非常に電気を通しにくい素材と言えます。

【絶縁耐力】

絶縁体が電気的に破壊されることで絶縁性を失い、電流が流れるようになることを絶縁破壊といいます。
絶縁耐力とは、絶縁体にある強度以上の電圧を印加した際に絶縁破壊の生じる電圧のことです。また、絶縁性を失う時の電圧を絶縁体の厚みで割った値を「絶縁破壊強さ(KV/mm)」といい、この値が大きいほど大きな電圧に耐えることができます。

フッ素樹脂(PTFE 3.2mm厚)の絶縁破壊強さは19KV/mmです。スーパーエンプラと呼ばれる耐熱性に優れるプラスチックの中ではPEEKの19KV/mmと同等でPPSの15KV/mmよりも優れます。

フッ素樹脂は、耐候性や耐熱性、難燃性、柔軟性にも優れるため、絶縁被膜に利用され、機器の小型高性能化や精密化に欠かせない素材と言えます。

フッ素樹脂の電気特性(2) 誘電率、比誘電率

誘電率は、素材が蓄えられる電気量の大きさのことです。
絶縁体の場合、電気がたまる量が少ない(=誘電率が低い)ほど理想的な素材となります。
また、比誘電率とは、絶縁体の誘電率と真空の誘電率との比のことで、誘電率と同様に、絶縁体の性能を評価する基準としてよく使用されます。
ポリエチレンは比誘電率の低い素材として知られていますが、フッ素樹脂(PTFE)はさらに低い値をもちます。

フッ素樹脂の電気特性(3) 誘電正接

誘電正接とは、絶縁体内部での電気エネルギー損失の度合いを示す数値です。これは高周波を扱う電気・電子部品(コンデンサなど)では特に重要視されます。

絶縁体に交流電圧を加えると、絶縁体の内部では電気エネルギーの一部が熱エネルギーに変換される現象が起きます。これは「誘電損失」と呼ばれます。
誘電正接の値が大きい材料は、高周波を通したときに誘電損失が大きく、部品の温度上昇につながります。温度が上昇すると絶縁性の低下や、内蔵されている電子回路の不具合などを引き起こす原因となります。

フッ素樹脂の場合、誘電正接が低く、また周波数や温度に関係なくほとんど一定で安定しています。この特徴を利用して、同軸ケーブルやプリント基板などにフッ素樹脂が使用されています。

フッ素樹脂と帯電

このようにフッ素樹脂は、絶縁体として大変優れた素材です。その一方で、静電気を帯びやすい、帯電しやすい性質を持っています。
静電気は、プラスに帯電しやすい物質とマイナスに帯電しやすい物質をこすり合わせるなどしたときに表面の電子が移動することで発生します。フッ素樹脂は最もマイナスに帯電しやすい性質があります。

静電気は、いろいろな被害を引き起こすことがあります。例えば、静電気による火花が起きて、周囲に可燃性の気体があると爆発を起こしたり火災が起きたりと大きな事故につながります。

物質の摩擦帯電列
いろいろなものの摩擦帯電列

フッ素樹脂の帯電防止性

フッ素樹脂を利用した製品には、フッ素樹脂の帯電を防止するため、導電材を添加して抵抗値を調整した「帯電防止グレード」があります。フッ素樹脂の性質を安全かつ便利に利用するため、静電気を防止したい環境では帯電防止グレードのフッ素樹脂をお勧めします。

フッ素樹脂についての詳しい記事はこちらをご覧ください。

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