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PTFEとは?~テフロン™樹脂との違いも解説~

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PTFEパウダー

こんにちは。「吉田SKT」ブログ編集チームです。
吉田SKTは、PTFEコーティングをはじめとするフッ素樹脂コーティングの分野で60年以上の実績を持つコーティング加工メーカーです。長年培ってきた技術と知識を活かし、さまざまな産業のお客様の課題解決をサポートしてきました。

工業材料として広く使用されているPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)は「テフロン™」の商標でも知られ、その優れた特性から多くの分野で重宝されています。

この記事では、PTFEの基本的な特徴から分子構造、製造方法、そして多様な産業分野での応用例まで、幅広く解説していきます。非粘着性、低摩擦性、耐薬品性といったPTFE特有の性質とその活用法について、できるだけわかりやすくお伝えします。なぜPTFEが多くの産業で重要な役割を果たしているのか、具体的な活用事例を交えながらご紹介していきますので、ぜひ最後までお読みください。

PTFEとは

PTFE(polytetrafluoroethylene/ポリテトラフルオロエチレン)は、フッ素樹脂のひとつで、「テフロン™」の商品名でも有名です。フッ素樹脂のなかでは最も多く生産される白色の結晶性樹脂で、熱可塑性のプラスチックです。PTFEの独特な分子構造はさまざまな特性をもたらし、プラスチックの材質において大変優れています。一つの素材で、非粘着性、低摩擦性、耐薬品性、耐候性、電気特性、耐熱性といった複数の特性を兼ね備える点では、稀有な樹脂と言えるでしょう。その優れた耐熱性や電気特性などからスーパーエンジニアリングプラスチックに分類されます。

「PTFE」は「poly tetra fluoro ethylene」の頭文字をとった呼び方です。別名では「四フッ化エチレン」と呼ばれたり「4F」と表記されたりします。

PTFEパウダー
PTFEパウダー

PTFEは1938年に米国デュポン社の R.J. プランケット博士(1910-1994)がフレオンガスと関係したガスの研究中に発見。1944年にデュポン社により「Teflon®」(テフロン®)と商標登録され市場に出されました。
つまりフッ素樹脂の種類のひとつとしてPTFEがあり、「Teflon®」(テフロン®)はその発見者の企業が登録した商標のことです。 PTFEは発見から半世紀以上経った今日でも半導体分野、化学工業分野、自動車航空宇宙分野をはじめ数多くの産業でなくてはならない材料です。

参考記事:テフロンとは?特徴や性質、フッ素樹脂との違い、PTFEの発見まで解説

PTFEの材質における分子構造と特徴

PTFEは、炭素原子(C)とフッ素原子(F)が結合したものが直鎖的につながった分子構造になっています。
炭素原子同士の結合部はフッ素原子で隙間なく覆われることで、フッ素原子によって保護されています。

PTFEの分子構造
PTFEの分子構造

Poly Tetra Fluoro Ethylene (ポリテトラフルオロエチレン)
別名:四フッ化エチレン、4F
融点327℃、連続使用温度260℃

ほかにもこんな特徴が挙げられます。

  • 分子内の原子の配列は緊密で対称的になっており、電荷の分極がとても小さい
  • 分子量が100万~数千万と非常に長い分子鎖でできている高分子

このような特徴的な分子構造により安定しているPTFEは、非粘着性、低摩擦性、耐熱性、耐薬品性、電気特性などの特性を発揮します。

PTFEの分子結合のイメージと結合エネルギーの強さ
分子結合のイメージと結合エネルギーの強さ

C-F結合は、他の結合に比べてエネルギー的に大きい(C-F:116Kcal/mCl)

PTFEの分子構造による特徴一覧

フッ素樹脂(PTFE)を特徴ごとに詳しく解説した資料をご用意しました。おすすめリンクよりダウンロードできますのでご活用ください。

 

PTFEの特徴と用途

非粘着性を応用した用途

PTFEの非粘着性を最も身近で利用しているものに、テフロン™加工やフッ素コートのフライパンがあります。PTFEの高い耐熱性と非粘着性により、ガスやIHで加熱調理ができ、食材がくっついたりこびりついたりすることがありません。
そしてPTFEの非粘着性はフライパンだけでなく、コンベアベルト、ホースや継ぎ手などの製品として医薬医療分野、化学工業分野、食品工業分野などさまざまな生産現場で利用されています。

フライパン

参考記事:「なぜくっつかない!?」テフロン™フッ素樹脂の非粘着性を解説

低摩擦性を応用した用途

PTFEの静摩擦係数は0.04と固体の中で最も小さく、身近なところではアイロンの熱板部のコーティングとしても利用されています。
製造設備で潤滑性が必要な場合、一般的にはオイルやグリスを使いますが、汚染を嫌う食品加工機や、溶剤などを使用する撹拌機やポンプ、潤滑油が機能しない極低温環境での冷凍機やバルブなど、潤滑油が使用できない装置や機械の固体潤滑製品としてPTFEが使用されます。

アイロン

参考記事:フッ素樹脂の低摩擦性の解説はこちら

耐薬品性を応用した用途

PTFEは一部の特殊な場合を除き、ほとんどすべての薬品や溶剤に侵されることがありません。またガス透過性も低く、薬品と接する容器やパッキン、ガスケット、バルブ、チューブ、ポンプ部品などの製品としても利用されます。
PTFEは薬品に強いだけでなく、耐熱性、耐寒性、耐候性、非粘着性、低摩擦性などの機能を併せ持つため、金属を腐食から守る耐食材料としても優れた機能を発揮します。

配管

参考記事:フッ素樹脂の耐薬品性の解説はこちら

参考記事:【耐食処理】フッ素樹脂シートライニングの基本情報を解説

非粘着性、低摩擦性、耐薬品性の用途でお困りの際は、お気軽にお問い合わせください。用途に適した方法をご提案いたします。

PTFEの製造方法

PTFEの原料は蛍石と呼ばれるフッ化カルシウムが主成分の鉱石で、製造方法は蛍石に硫酸を反応させてフッ酸をつくるところから始まります。

PTFE製造方法
PTFE製造方法

PTFEの主な加工方法

成形方法

PTFEは熱可塑性プラスチックですが、溶融粘度が1010~1011ポイズと高いため、一般的な熱可塑性プラスチックのような溶融成形が難しい材料です。そのため熱可塑性プラスチックに用いられる射出成形一般的ではなく、粉末冶金やセラミックスの成形に似た以下の方法が用いられます。

  • 圧縮成形
  • アイソスタティック成形
  • ラム押出成形
  • 自動予備成形
  • ペースト押出成形

製品例

PTFEの成形方法成形される製品吉田SKTの取扱製品例
圧縮成形プレートやシートやビレットなどTEFPASS® SHEET
アイソスタティック成形ビーカーやパイプなどM-PTFEパイプライナー
ラム押出成形丸棒など 
自動予備成形パッキンなど 
含侵コーティング法フッ素樹脂ガラスクロスシートマックスライナーベルト®
ペースト押出成形生テープ、フィルムなど 
成形方法と製品例

切削加工方法

成形されたPTFEは通常の工作機械で加工することができます。
PTFEの丸棒やビレットから加工される製品は、半導体分野や化学工業分野などの純粋性や耐熱性や耐薬品性を必要とする分野で多く使用されています。
PTFEは熱膨張や弾性のため、金属のように高い寸法精度で加工することはできません。
また切削加工時は、熱伝導率が小さい、熱膨張計数が大きい、20℃付近で大きな体積変化が生じることや残留歪に注意する必要があります。
さらに、加工温度が260℃を超える場合はしっかりと換気をすることや衣服等に付着した切削くずによるポリマー煙熱に注意が必要です。

PTFE切削加工品
PTFE切削加工品

ライニング方法

PTFEでのライニングはパイプライナーを配管内に併設するルーズライニングと、あらかじめPTFEシートの片面を接着しやすいよう加工したシートを接着するシートライニングなどがあります。
PTFEを接着剤で接着するためには、表面を化学的にエッチングする方法や、ガラスファブリックやカーボンファブリックをラミネートしたシートを使用する方法があります。
耐薬品性やガス透過性に優れるPTFEシートやパイプで金属基材と薬品を隔離することで、高い耐食性を得ることができます。

ライニング加工品
ライニング加工品

>M-PTFEパイプライナー製品情報はこちら

>フッ素樹脂シート製品情報はこちら

参考記事:【耐食処理】フッ素樹脂シートライニングの基本情報を解説

コーティング方法

PTFEのコーティングで最も有名なものとしてフライパンのテフロン™加工があります。
「テフロン™」はデュポン社、現ケマーズ社の商標です。
PTFEは接する相手とくっつきにくい性質があるため、モノにコーティングするためには特殊な方法が用いられます。
また、高い溶融粘度でピンホールができやすく厚膜に加工することも難しいため、非粘着性、低摩擦性を活用した用途が主なものになります。

PTFEコーティングによる非粘着性の活用は、輸送搬送装置の滑り性向上や樹脂やゴム成形の離型目的、食品の付着防止、塗装治具の清掃性向上やOA機器の部品など多岐にわたります。
また、優れた低摩擦性(固体潤滑性)でプランジャーや搬送装置、OA機器部品など、汚染を嫌いオイル潤滑できない用途で利用されています。

コーティング加工品
コーティング加工品

PTFEの加工品、ライニング加工、コーティングについてご検討の際は、吉田SKTまでお気軽にお問い合わせください。

PTFEの特性表

特性 単位 PTFE JIS試験法 ISO試験法 ASTM試験法
物理的 融点 327 K6935 12086 D4591
Tg   K7121 3146 D3418
密度 g/cm3 2.13-2.20 K7112 1183 D792
機械的 引張強さ MPa 20 – 35 K7161 K7162 527 D638
伸び 200-400 同上
圧縮強さ MPa(10%変形) 10-15 K7181 604 D695
アイゾット衝撃強さ J/m 150-160 K7110 180 D256A
ロックウェル硬さ (Rスケール) R 20 K7202 2939 D785
ショアー硬さ (Dスケール) D50-55 K7215 2089 D2240
曲げ弾性率 GPa 0.53-0.58 K7171 178 D790
引張弾性率 GPa 0.40-0.60 K7162 527 D638
動摩擦係数 (0.69MPa,10MP a、3.8m 0.1 K6935   D1894
磨耗係数 10MPa、3.8m /S、1018S        
熱的 熱伝導率 W/m・K 0.25 A1412 8902 C177
比熱 103J/Kg・K 1 K7123 11357 E1269
線膨張係数 10-5/℃ 10 K7197 11359 D696
ボールプレッシャー温度 180 参照1
熱変形温度 1.81MPa 55 K7191 75 D648
0.45MPa 120
最高使用温度(連続) 260 K7226 2578
電気的 体積抵抗率 Ω・ cm(50%RH,23℃) >1018 K6911 C2139 IEC60093 D257
絶縁耐力(短時間) MV/m 3.2mm厚 19 K6911 C2110 IEC60243 D149
比誘電率 (60Hz) 2.1 K6911 C2138 IEC60250 D150
(103Hz) 2.1
(106Hz) 2.1
誘電正接 (60Hz) 0.0002 K6911 C2138 IEC60250 D150
(103Hz) 0.0002
(106Hz) 0.0002
耐アーク性 sec >300 C3125 IEC61621 D495
耐久性その他 吸水性 %(24H) 0.01 K7209 62 D570
燃焼性 3.2mm厚 V-0 K7140 1210 UL-94
限界酸素指数 >95 K6935 K7201 4589 D2863
直射日光の影響 なし  
耐薬品性   超優秀 K7114 175 D543
アルカリ 超優秀
有機溶剤 超優秀

備考
超優秀:ほとんどの薬品、溶剤に過酷な条件下でも侵されない。
優秀:一部の薬品、溶剤には特定の条件下では使用を留意する必要がある。
秀:使用する薬品、溶剤、使用条件を詳細に検討する必要がある。
良:一部の薬品、溶剤に溶ける。

参照1:電気用品に用いられる熱可塑性プラスチックのボールプレッシャーの登録制度に関する報告書準拠