電気自動車(EV)の技術~基礎や仕組み・ハイブリット車との違い・将来性を解説
電気自動車は、電気を使ってバッテリーやモーターを駆動させます。電気自動車のバッテリーにはリチウムイオン電池が用いられているため、パソコンやスマートフォンのように充電しての利用が可能です。ただし、電気自動車には、原材料の高騰やインフラ整備の不備などの課題もあります。
この記事では、電気自動車に用いられている技術の仕組みや課題などを解説します。ぜひ参考にしてください。
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電気自動車とは
電気自動車とは、電気モーターを駆動して走行する車です。車両のバッテリーに蓄えた電力を使い、バッテリーからモーターに電気を流して車を走らせます。電気自動車にはリチウムイオン電池を搭載しており、家庭や商業施設などでも充電が可能です。2021年の電気自動車の保有台数は、乗用車と軽自動車を含めて14万台を超えています。
※参考:EV等 保有台数統計_調査・統計_CEV、外部給電器、EV・PHV用充電設備、水素ステーションの補助金申請の案内行う次世代自動車振興センター
電気自動車の仕組み
電気自動車は、充電した電力でモーターを回転させる仕組みで駆動します。車両はアクセルを踏んだ量に応じてモーターに電力を流して走行し、制御装置のインバータで速度の調節をします。電気自動車は電気を動力にしていますが、高速道路で走行できる速度を維持できるため、ガソリン車と同じような走行が可能です。
※参考:全国自動車短期大学研究発表会|電気自動車の使い勝手に関する実証研究(第2報)
電気自動車とハイブリット車の技術の違い
電気自動車は、電気で動くモーターのみで駆動する車両です。ハイブリット車の動力は、エンジンとモーターを組み合わせたものです。ハイブリッド車は発進したり低速で走行したりする時はモーターを利用し、通常の走行時に動力をエンジンに切り替えます。プラグインハイブリッドカーであれば直接充電できるため、電気自動車に近い性能をもちます。
ハイブリッド車はEVに近い特性ではありますが、電気自動車には該当しません。CO2の排出問題をはじめとする環境問題を解決するには、欧州メーカーのように車両の電動化が必要です。
電気自動車に用いられている技術
電気自動車は、電力を変換しながら走行する車両です。ここでは、電気自動車に用いられている技術を解説します。
バッテリー
バッテリーは、電気自動車の動力源である電力を蓄える装置です。バッテリーに使われる充電池は、リチウムイオン電池や鉛電池、ニッケル水素電池などです。リチウムイオン電池はエネルギー密度と寿命が優れており、1回の充電の走行距離を延ばせます。リチウムイオン電池は小型ですが、エネルギー密度が鉛蓄電池に比べて3倍以上あり、急速充電にも対応しています。
参考記事:リチウムイオン電池とは?種類や仕組み、主な用途や安全性も解説
参考記事:全固体電池とは?仕組みや種類、メリット・デメリットなどを解説
モーター
モーターは、バッテリーの電力を駆動力に変換する装置です。回転子であるローターと固定子のステーターで構成されており、ステーターで磁力を発生させてローターを回す構造です。モーターには、交流電流の周波数を変えるために、回転数を制御する交流モーターが使われています。
交流モーターに電力を流すと、モーター内部のコイルがN極とS極に変化します。コイルの変換により、磁石やコイルを回転させて駆動力をつくる仕組みです。
参考記事:モーターとは?種類や仕組み、役割や特徴などをわかりやすく解説
コントローラー
コントローラーはバッテリーからモーターに電力を送る際に、電気の形を変換する装置です。コントローラーはエンジン車でいうところの燃料ポンプの役割をもち、電力の交直変換を行うことで調節をします。バッテリーには直流電流を流し、モーターは交流電流を流すことで電力を変換します。
コントローラーに該当するのは、電圧を調節する「コンバータ」や、交流モーターを回すための「インバータ」などの部品です。
電気自動車の充電器の種類
電気自動車の充電器は、普通と急速の2種類があります。ここでは、それぞれの特徴について解説します。
普通充電器
普通充電器は、交流電源で電力を蓄える充電器です。コンセント型とポール型の2種類の充電器があり、自宅のガレージや事務所、宿泊施設などの停車時間が長い場所に設置されています。
普通充電器には単相AC100V、もしくは200Vが使われています。200Vの場合1時間で充電できる電力は「3kWh」で、約10kmの走行が可能です。普通充電器でバッテリー容量を満タンにするには、約20時間かかります。
急速充電器
急速充電器は直流電力の高出力で、短時間の充電に対応している充電器です。電源は3相200Vが使用されており、出力は「20kW〜50kW」に対応しています。急速充電器の設置場所は、高速道路のパーキングエリアやサービスエリア、ディーラーなどです。
急速充電器の利用時間は、原則として30分に定められています。急速充電はバッテリーに負担をかけるため、満タンにならなくても途中で充電が停止します。急速充電の出力が20kWの場合は最大10kWhまでの充電ができ、出力50kWの場合は最大25kWhまで可能です。
電気自動車に使用されている回生ブレーキとは
回生ブレーキとは、車輪が持つ運動エネルギーを電気エネルギーに変換して再利用するものです。回生とは、「生き返る、蘇る」の意味をもちます。通常のブレーキは、運動エネルギーを熱として消費して捨ててしまいます。回生ブレーキを利用すると、捨てていたエネルギーを電気に変換して、バッテリーに充電が可能です。
回生ブレーキの仕組み
回生ブレーキは、走行の減速時にモーターを発電機として活用する仕組みです。運動エネルギーを電気エネルギーに変換して、バッテリーに電力を戻して再利用できるので、エネルギーを効率よく利用できます。
回生ブレーキのメリット
回生ブレーキは、電費というエネルギー効率を表す燃費の節約ができ、航続距離を延ばせます。回生ブレーキと摩擦ブレーキが車両を制御し、ブレーキの負担を抑えられるためです。回生ブレーキは、ブレーキのメンテナンス費用の節約にもなります。
電気自動車の技術進化の方向性
電気自動車の技術は、日々進歩しています。ここでは、システムやモーターなどの進化の方向性について解説します。
V2Hシステム
V2Hシステムとは、バッテリーからパワーコンディショナーを経由して、家庭の電力として供給する仕組みのものです。V2Hシステムは充電時間が短く、蓄えた電力を節電や災害時の非常用電源として確保できます。
インホイールモーター
インホイールモーターは、車輪の近傍や車輪内部に設置するモーターです。インホイールモーターの4輪は独立して制御できるため、アクセル操作の反応がよくなったり、旋回時の車を思い通りに動かせたりします。
レンジエクステンダー
レンジエクステンダーは、航続距離を延ばす仕組みのことです。システムに車載発電機を搭載し、短距離と長距離どちらの走行にも対応できます。レンジエクステンダーは、駆動用バッテリーの容量以上に、航続距離を延ばせる点もメリットです。
技術的な面における電気自動車のメリット
電気自動車は、走行中の騒音や二酸化炭素の排出を抑えられます。ここでは、技術的な面におけるメリットを解説します。
静かに走行できる
電気自動車はバッテリーとモーターで動くため、エンジン駆動時の振動や駆動音を抑えられます。ガソリン車はガソリンを燃やして動力をつくるため振動や騒音が大きくなります。電気自動車は走行中の揺れや騒音も抑えられるため、静かな状態での走行が可能です。
電気自動車は、走り出した瞬間にモーターが最大の回転力(トルク)を発生させるため、アクセルを少し踏むだけでパワフルに走行できます。
二酸化炭素の排出を減らせる
電気自動車は走行中の二酸化炭素の排出を抑えられるため、環境へのやさしさが特徴です。電気自動車は、発電時に二酸化炭素を排出しています。しかし、走行中はガソリン車のように二酸化炭素や炭化水素、窒素酸化物などを排出しません。電気自動車は再生可能エネルギーの導入が進むことで、より環境に配慮したものとなります。
技術的な面における電気自動車のデメリット
電気自動車は、充電時間や走行距離に課題があります。ここでは、技術的な面におけるデメリットを解説します。
充電時間が長い
電気自動車はガソリン車の給油と違い、数分で充電を満タンにできません。サービスエリアの急速充電は数が少ないため、充電するために渋滞を起こす可能性があります。電気自動車は充電スポットを利用する際に、事前に登録が必要です。運転する前に充電スポットを事前に確認し、余裕をもって準備しておくことが重要です。
走行可能な距離が短い
電気自動車はガソリン車に比べて、走行距離が短くなります。ガソリン車の約1,500km走行可能な車に比べて、電気自動車の走行可能な距離は200km〜600kmです。バッテリーは劣化するので、走行距離が徐々に短くなる点にも注意が必要です。電気自動車は車種によって走行距離に差があるため、事前に充電スポットの場所を把握したうえで運転しましょう。
電気自動車の技術の課題
電気自動車は、インフラ整備や資材の高騰などの問題を抱えています。ここでは、技術面の課題を解説します。
充電インフラの整備が不足している
電気自動車の充電スポットは不足しており、1箇所あたりの充電設備が少ない傾向にあります。都市部では有料駐車場内をはじめ、充電スポットの設置数が増えていますが、人口密度の低い地方は、充電スタンドの数が少なくなります。
電池資材の価格が高騰している
電池資材の価格は、世界情勢の影響で高騰しています。バッテリーに必須なリチウムイオン電池の原材料費が高くなっており、ニッケルやコバルトなどの国際相場も高騰中です。経済産業省の調査によると、2040年における電池資材の需要は、2020年⽐でリチウムは約13倍、ニッケルやコバルトは約6倍となる試算が出ています。
世界各国で電気自動車の需要は急増していますが、電池資材の供給が追いついていません。
電気自動車の将来性
電気自動車の将来性は明るいといえます。自動車・蓄電池産業は「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略(グリーン成長戦略)」において、注力すべき重要分野の1つとして位置づけられています。令和3年度補正予算において、電気自動車の補助額が40万円から最大85万円に増加しました。
2030年までに、国内に急速充電3万基と普通充電12万基、水素ステーション1,000基が設置される予定です。2035年までには、乗用車新車販売で電気自動車をふくむ電動車100%の実現を目指しています。
※参考:モビリティの構造変化と2030年以降に向けた自動車政策の方向性に関する検討会
まとめ
電気自動車は、バッテリーやモーターなどを使って走行する車です。電気自動車の技術の進歩によって、環境への配慮や静かな走行ができます。今後は電気自動車の需要の増加によって技術の進歩が求められ、モーターやリチウムイオン電池の製造へのニーズが高まります。
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